がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/09/12

 

 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。

がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった

 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。

 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。

 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。

 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。

さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう

 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。

 主な見どころは以下のとおり。

<代表理事講演>
10月1日(日)13:00~13:30
「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」
座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

<ガイドラインセッション>
9月30日(土)
14:00~15:30
座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)
   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)
演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)
   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)
   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)
   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)
   朝井 洋晶氏
   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)
   庄司 正昭氏
   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)

15:40~17:10
座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)
   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)
演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)
   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)
   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)
   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)
   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)

<シンポジウム>
9月30日(土)9:00~10:30
「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」

10月1日(日)
9:00~10:30
「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画
10:40~11:50
「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画
13:40~15:10
「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」
15:20~16:50
「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画
15:20~16:50
「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画

<Keynote Lecture>
9月30日(土)11:20~12:10
「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」
Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)

<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>
10月1日(日)10:50~11:50
「がん合併脳卒中の治療をどうするか」

 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

(ケアネット 土井 舞子)