社会的な孤立が、アルツハイマー型認知症を予防するための修正可能なリスク因子の可能性があるとする、マギル大学(カナダ)のKimia Shafighi氏らの研究結果が「PLOS ONE」に2月1日掲載された。社会的孤立や周囲からのサポートの欠如と、糖尿病を含む身体疾患をはじめとする、アルツハイマー病の種々のリスク因子との関連が明らかになったという。
アルツハイマー病とそれに関連する認知症(alzheimer’s disease and related dementias;ADRD)の増加は、多くの国で公衆衛生上の重要な課題となっている。ADRDの治療法はいまだ確立されていないが、予防に関しては、修正可能なリスク因子の管理によって、最大40%程度、発症を抑制できる可能性が報告されている。修正可能なリスク因子として、これまでのところ、喫煙、運動不足、肥満、聴力や視力の低下、糖尿病や高血圧の管理不良などとともに、近年、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如の関与も指摘されている。
これらのリスク因子は相互に影響を及ぼしてADRDリスクをより高める可能性が想定されるが、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如と、ADRDの既知のリスク因子との関連については、十分明らかになっているとは言えない。Shafighi氏らはこの点について、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」と、カナダで行われている加齢に関する縦断研究「CLSAコホート」のデータを用いて検討した。
研究対象者数は、UKバイオバンクが50万2,506人(女性54.4%)、CLSAコホートは3万97人(同50.9%)。「孤独だと感じる頻度は?」、「悩みを打ち明けられる人はいるか?」などの質問によって、社会的孤立と周囲からのサポートレベルを評価し、それらの結果とADRDの既知のリスク因子との関連の有無を調べた。
ベイジアンモデルという統計学的手法による解析の結果、社会的孤立を感じていたり周囲からのサポートが欠如している人は、喫煙量や飲酒量が多く、身体活動量が少なく、睡眠障害を有することが多いという関連が浮かび上がった。例えばUKバイオバンクでは、喫煙本数が多いほど社会的孤立を感じる割合が19.7%増え、喫煙頻度が高いほど周囲からのサポートが欠如した状態が10.2%増加するという関連が見られた。
CLSAコホートでは、ほかの人と運動をする機会が増えると社会的孤立を感じる割合が20.1%減少し、周囲からのサポートが欠如した状態は26.9%減少するという関連が認められた。また、テレビの視聴は社会的孤立の増加や周囲からのサポートの欠如と強い関連があり、反対にパソコンの使用は社会的孤立の減少と周囲からのサポートの増加と関連していた。
認知症のリスク因子として位置付けられている糖尿病と聴覚障害は、UKバイオバンクとCLSAコホートの双方で、社会的孤立および周囲からのサポートの欠如と強固な関連が認められた。そのほかにも、心血管疾患、視覚障害、抑うつ様行動など、既知の身体的・精神的リスク因子との関連性も観察された。
著者らは、「一般住民を対象とする疫学データに基づくわれわれの研究結果は、神経変性疾患の多くのリスク因子が、孤独やサポートの欠如と関連していることを示している。孤独を感じている個人への社会的な介入が、ADRDリスク抑制のための有望な戦略となるのではないか」と語っている。
[2023年2月2日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら