微小なプラスチック粒子が血液脳関門を突破する仕組みについて研究を進めている研究グループが、その答えを見つけたことを報告した。マウスとコンピューターモデリングを使った実験により、体内に取り込まれたマイクロプラスチックや1μm(0.001mm)未満のナノプラスチック(micro- and nanoplastics;MNP)が脳に到達するためには、その表面に形成される生体分子コロナと呼ばれる複合体が重要な役割を果たしていることを突き止めたのだ。研究グループは、「プラスチック粒子が血液脳関門を突破する仕組みを明らかにした今回の研究結果を受け、この分野の研究が前進する可能性がある」と期待を示している。デブレツェン大学(ハンガリー)物理化学分野のOldamur Holloczki氏らによるこの研究の詳細は、「Nanomaterials」に4月19日掲載された。
MNPは、包装された食品や液体を通して食物連鎖に入り込む。過去の研究では、1日に1.5〜2Lのペットボトル入りの水を飲む人は、1年間に約9万個のプラスチック粒子を摂取することになることが報告されている。場所による違いはあるが、ペットボトル入りの水の代わりに水道水を飲むことで、これを4万個に減らすことができるという。
血液脳関門は、血液から脳組織への物質の輸送を制限する仕組みであり、血液から病原体や有害物質が脳に到達するのを防ぐ役割を果たしている。MNPが人間の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、目下、熱心に研究が進められており、すでに、消化管内のMNPが局所的な炎症反応や免疫反応、さらにはがんの発生に関係していることなどが示唆されている。論文の上席著者である、ウィーン医科大学(オーストリア)病理学分野のLukas Kenner氏は、「脳内では、プラスチック粒子が炎症、神経障害、あるいはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患のリスクを高める可能性がある」と懸念を示している。
今回の研究では、食品の包装材などに多用されているプラスチックであるポリスチレンのMNPを6匹のマウスに経口投与し、MNPが血液脳関門を通過するかどうかを確かめる実験が行われた。MNPのサイズは、9.55μm、1.14μm、0.293μmの3種類が用意された。
その結果、最も小さなMNPは投与後わずか2時間で、マウスの脳内で検出された。Kenner氏らはMNPが体内でどのようにして輸送されるのかを検討するために、細胞膜のモデルとして人体の主要なリン脂質であるDOPCからなる脂質二重膜、ナノプラスチックとしてそれぞれの鎖が100個のスチレンモノマーから成る4本のポリスチレン鎖を折り畳んだものを用意した。その上で、コロナを持たないナノプラスチックとコレステロールやタンパク質のコロナを持つナノプラスチックをモデル粒子とし、脂質二重膜とナノプラスチックとの相互作用を粗視化分子動力学シミュレーションにより解析した。
その結果、ナノプラスチックが脂質膜内に取り込まれるには、コロナを構成する分子が重要であることが明らかになった。すなわち、コレステロール分子から成るコロナはナノプラスチックの膜への取り込みを促進するのに対して、タンパク質分子から成るコロナを有するナノプラスチックは膜を通過できないことが示された。
ただし、動物を対象とした研究が人間で同じ結果をもたらすとは限らない。Kenner氏は、「MNPが人間や環境に与える潜在的な害を最小限に抑えるには、今後の研究によりMNPの影響が明らかにされるまではプラスチックへの曝露を控え、その使用を制限することが極めて重要だ」と述べている。
[2023年4月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら