前糖尿病は認知症リスクが高いものの、糖尿病への移行を防ぐことができれば、認知症リスクの上昇を抑えることができる可能性を示すデータが報告された。また、より若い年齢で糖尿病に移行した場合は、認知症リスクがより高くなることも示された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetologia」に5月24日掲載された。
前糖尿病は、血糖値が基準値よりは高いものの、糖尿病の診断基準は満たしていない状態のことで、月日の経過とともに糖尿病に移行しやすい。前糖尿病では肥満などの影響のために、血糖値を下げるホルモンであるインスリンに対する感受性が低下する「インスリン抵抗性」を生じていることが多い。インスリン抵抗性や高血糖は、認知症のタイプとして最も多いアルツハイマー型認知症の原因と考えられている、脳内のアミロイドβやタウ蛋白の蓄積に関与している。Fang氏は、「アミロイドβやタウ蛋白の蓄積は脳細胞の喪失を引き起こす可能性があり、それが認知症につながるのではないか」と解説。また、「前糖尿病が認知症の独立した危険因子なのか、そうではなく、前糖尿病の人は糖尿病になりやすいために認知症のリスクが高いように見えるのか。まだどちらが正しいのか不明だが、われわれの研究結果は後者の影響が強いことを示唆している」と話している。
Fang氏らはこの研究で、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARICスタディ」のデータを解析に用いた。研究参加時点で糖尿病のなかった人は1万1,656人(平均年齢56.8歳)で、そのうち20.0%に当たる2,330人が前糖尿病(HbA1c5.7~6.4%)だった。24.7年の追跡で、前糖尿病群の認知症発症リスクは前糖尿病でない群より有意に高かった〔ハザード比(HR)1.12(95%信頼区間1.01~1.24)〕。ただし、糖尿病に移行したか否かの違いを統計学的に調整すると、この関連の有意性は消失した〔HR1.05(同0.94~1.16)〕。
また、より若い時期に糖尿病を発症した場合に、認知症のリスクがより高くなることも分かった。具体的には、追跡期間中に糖尿病を発症しなかった人に比べて、60歳未満で糖尿病を発症した人の認知症リスクは2.9倍〔HR2.92(2.06~4.14)〕、60歳代で糖尿病を発症した人は1.7倍〔HR1.73(1.47~2.04)〕、70歳代で発症した人は1.2倍〔HR1.23(1.08~1.40)〕だった。80歳を過ぎてから糖尿病を発症した人の認知症リスクは、糖尿病を発症しなかった人と有意差がなかった。
では、前糖尿病の人の糖尿病への移行を防ぐことによって、認知症のリスクは低下するのだろうか?Fang氏は、「その期待はある。前糖尿病の人たちの病態進行を抑制する社会的な取り組みが、認知症による疾病負担の軽減につながるのではないか」と述べている。同氏は、体重管理と糖尿病予防政策などを推進し、人々のより健康的なライフスタイルを奨励することを提案。それによって、糖尿病や認知症の患者数の増加を抑制できる可能性があるとしている。
[2023年5月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら