心肺が突然停止した人に対して、バイスタンダー(その場に居合わせた人)が心肺蘇生(CPR)の実施に加えて自動体外式除細動器(AED)を使用すると、たとえ救急車が現場に到着するまでに2分しかかからなかった場合でも、その人の30日生存率が向上することが、新たな研究で示された。Nordsjaelland病院(デンマーク)のMathias Hindborg氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会(ESC Congress 2023、8月25〜28日、オランダ・アムステルダム)で発表された。
心肺停止の主な原因の一つに心室細動がある。これは、心臓から全身に血液を送り出す心室が不規則にけいれんすることで心臓のポンプ機能が異常を来し、脳も含めた全身への血液供給が停止してしまう状態を指す。心室細動が生じた人は意識を消失し、血流を速やかに回復させなければ10〜20分で死に至る。
Hindborg氏は、「心肺停止に陥った人に対してバイスタンダーができる最善のことは、CPRの実施とAEDの使用だ。AEDの最適な設置場所については過去の研究で検討されているが、救急車が現場に到着するまでにかかる時間がAEDの設置場所に及ぼす影響についての情報は欠如しているといっても過言ではない。われわれは、今回の研究でその点を検討した」と説明している。
この研究では、デンマーク心肺停止レジストリから抽出した、2016年から2020年の間に院外心肺停止を起こし、バイスタンダーからCPRを受け、25分以内に救急車が到着した成人7,471人のデータを用いて、救急車が現場に到着する前に、バイスタンダーからAEDによる除細動(AEDの電気ショックで心臓を正常な状態に戻すこと)を受けた人と受けていない人の生存率を比較した。比較は、救急車が到着するまでの時間を8つのカテゴリーに分類し、年齢や性別、心肺停止を起こした場所、心筋梗塞や脳卒中などの既往歴などの関連因子で調整した上で行った。対象者の14.7%(1,098/7,471人)は、救急車が到着する前にAEDによる除細動を受けていたが、残りの85.3%(6,373/7,471人)はAEDによる処置を受けていなかった。
解析の結果、心肺停止から30日後の生存率は、救急車が到着する前にAEDによる除細動を受けた人で44.5%(489/1,098人)であったのに対し、除細動を受けなかった人では18.8%(1,200/6,373人)にとどまっていたことが明らかになった。救急車の到着時間別に見ると、AEDによる除細動を受けた人の30日後の生存率は、到着時間が2〜4分で37%、4〜6分で55%、それぞれ除細動を受けなかった人よりも高かった。同様に、救急車の到着時間が6〜8分、8〜10分、10〜12分、12〜15分、15〜25分のいずれの時間カテゴリーでも、除細動を受けた人の生存率は受けなかった人の約2倍であった(相対リスクは同順で2.23、1.99、1.89、1.86、1.98)。ただし、救急車の到着時間が0〜2分の場合でのみ、両群間に有意差は認められなかった。
こうした結果を踏まえてHindborg氏は、「バイスタンダーによる除細動の実施が生存率に最も良い影響を与えたのは、救急車の現場への到着時間が6~8分の場合であった。この結果は、資源に限りがある場合には、救急車の現場への到着時間が6分以上かかる可能性のある地域に優先的にAEDを設置すべきことを示すものだ」と述べている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
[2023年8月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら