一般市民によるAED、不成功でも神経学的転帰改善/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2020/01/06

 

 院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest:OHCA)患者への自動体外式除細動器(automated external defibrillator:AED)を用いた一般市民による除細動(public-access defibrillation:PAD)の実施は、AEDを使用しない場合に比べ、その場では自己心拍再開が達成されなかったとしても、その後の神経学的転帰を改善する可能性があることが、国立循環器病研究センターの中島 啓裕氏ら日本循環器学会蘇生科学研究グループの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年12月21日号に掲載された。日本では、ショック適応リズムを伴うOHCA患者へのPADの80%以上は、救急隊(emergency medical service:EMS)の現地到着前に、持続的な自己心拍再開には至らないという。これら患者の神経学的および生存転帰は知られていなかった。

PADを受けた患者と受けなかった患者を比較するコホート研究
 研究グループは、OHCA患者を対象とする日本の全国的な地域住民ベースの前向きレジストリ(ウツタイン様式)のデータを後ろ向きに解析するコホート研究を実施した(特定の研究助成は受けていない)。

 対象は、ショック適応リズムを伴うOHCAで、市民によって目撃され、バイスタンダー(救急の現場に居合わせた人)による心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR、胸骨圧迫、補助呼吸)を受けたが、EMSが現地に到着する前に自己心拍再開に至らず、医療機関に搬送された患者であった。これらの患者のうち、AEDによるPADを受けた患者と、これを受けなかった患者の予後を比較した。

 主要評価項目はOHCAから30日時の良好な神経学的転帰、副次評価項目はOHCAから30日時の生存とした。良好な神経学的転帰は、脳機能カテゴリー(Cerebral Performance Category:CPC)のスコア1(機能良好)または2(中等度障害)と定義された。

搬送遅延のリスクがあっても、市民によるCPR+PADを推進すべき
 2005年1月1日~2015年12月31日の期間に、129万9,784例がOHCAと確定された。EMS到着前に、PADの有無にかかわらず自己心拍再開を達成した患者は除外された。最終的に、EMS到着前に、CPR+PADを受けたが自己心拍再開に至らなかった2,242例(8.0%、PAD群)と、CPRのみを受けたが自己心拍再開に至らなかった2万5,087例(89.5%、非PAD群)が解析に含まれた(合計2万7,329例)。

 ベースラインの平均年齢は、PAD群60(SD 17)歳、非PAD群64(16)歳(p<0.0001)、男性がそれぞれ85%および79%(p<0.0001)を占めた。傾向スコアマッチングにより、PAD群の1,483例(66.1%)と、非PAD群の1,483例(5.9%)をマッチさせた(両群とも、平均年齢61[17]歳、男性84%)。

 30日時に良好な神経学的転帰を達成した患者の割合は、未補正(PAD群845例[38%]vs.非PAD群5,676例[23%]、オッズ比[OR]:2.07、95%信頼区間[CI]:1.89~2.26、p<0.0001)および傾向スコアマッチング後(546例[37%]vs.425例[29%]、1.45、1.24~1.69、p<0.0001)のいずれにおいても、PAD群で有意に優れた。

 また、30日時の患者の生存割合も同様に、未補正(PAD群987例[44%]vs.非PAD群7,976例[32%]、OR:1.69、95%CI:1.55~1.84、p<0.0001)および傾向スコアマッチング後(650例[44%]vs.553例[37%]、1.31、1.13~1.52、p<0.0001)の双方で、PAD群が有意に良好だった。

 患者が倒れてから、バイスタンダーまたはEMSによって初回のショックが行われるまでの時間中央値は、PAD群が非PAD群よりも有意に短かった(未補正p<0.0001)が、バイスタンダーが救急通報をするまでの時間(同p<0.0001)および病院到着までの時間(同p<0.0001)はPAD群のほうが長かった。傾向スコアマッチング後も、ほぼ同様の結果だった。

 救急通報を受けたEMSが現地に到着して患者への対応を開始するまでの時間別の良好な神経学的転帰の達成について解析したところ、6分未満(OR:1.41、95%CI:1.09~1.84)、6~10分(1.71、1.51~1.94)、10分以上(1.84、1.43~2.36)のいずれにおいても、PAD群が有意に優れた。

 著者は、「この新たな知見は、たとえ病院到着時間の遅延のリスクがあっても、院外心停止患者に一般市民が心肺蘇生と除細動を積極的に行うことを推進するとともに、地域におけるPADプログラム導入のさらなる拡大を支持するもの」としている。

(医学ライター 菅野 守)