1日当たりの歩数を3,000歩増やすことで、高齢の高血圧患者の血圧が有意に低下する可能性があるとする研究結果が報告された。米コネチカット大学運動学分野のLinda Pescatello氏らによるこの研究結果は、「Journal of Cardiovascular Development and Disease」に7月27日報告された。
米国では、高齢者の約80%が高血圧患者である。高血圧を抑えることは、心不全、心筋梗塞、脳卒中の発症予防につながる。Pescatello氏は過去の研究で、運動が高血圧患者の血圧に即時的な影響だけでなく持続的な影響も与え得ることを明らかにしている。今回の研究では、20週間にわたって高齢の高血圧患者の運動量を適度に増やすことで、同じ効果を得られるかどうかが検討された。
対象は、座位で過ごすことの多い肥満または過体重の高齢高血圧患者21人(66〜83歳、女性13人、男性8人)で、適度な運動量の増加として1日当たり3,000歩の追加を課した。高血圧は、収縮期血圧130〜159mmHgか拡張期血圧89〜99mmHg、またはその両方を満たすか、降圧薬を服用中の場合と定義された。対象者には、歩数計、血圧計、歩数記録帳が配布された。なお、研究グループは、1日当たりの追加歩数を3,000歩とした理由について、この追加により、米国スポーツ医学会が健康維持のために推奨している1日7,000歩を達成できる可能性が見込めたためだと説明している。論文の上席著者である米アイオワ州立大学運動学分野のDuck-chul Lee氏は、「健康に対するベネフィットを得る上で、3,000歩の追加という運動量は申し分ない量であり、ハードルが高過ぎて達成できないというものでもない」とコメントしている。
対象者の1日当たりの平均歩数は、試験開始時の3,899±2,198歩から、その10週間後には6,512±2,633歩、20週間後には5,567±2,587歩へと有意に増加していた。また、試験開始から20週間後には、収縮期血圧の平均値が137±10mmHgから130±11mmHgへ、拡張期血圧の平均値が81±6mmHgから77±6mmHgへ、それぞれ有意に低下していた。歩数の増加が血圧にもたらすこのような効果は、降圧薬服用の有無にかかわりなく認められた。他の研究結果に基づくと、本試験で認められた程度の血圧低下は、あらゆる原因による早期死亡リスクを11%、心臓関連の問題を原因とする死亡リスクを16%、心血管疾患の発症リスクを18%、脳卒中の発症リスクを36%低下させることが示唆されるという。
論文の筆頭著者である、米アイオワ州立大学運動学分野のElizabeth Lefferts氏は、「生活習慣に対する簡単な介入が、計画的な運動や薬物療法と同じように有効であることが明らかになり、心が躍った」と語る。そして、「歩数の増加により得られた効果は、高血圧の薬物療法に匹敵するものだ」と強調している。
Pescatello氏は、「以前の研究でわれわれは、運動と薬物療法を併用すると、運動が降圧薬の効果を増強することを示している」と述べ、「今回の結果は、運動に降圧療法としての価値があることを明示するものだ。もちろん降圧薬による治療効果を否定するつもりはない。運動も高血圧治療の手段の一つだということだ」と話す。
なお、本研究では、歩行速度や1回の歩行時間よりも、歩数の増加の方が重要なことも示されたという。この点についてPescatello氏は、「本当に重要なのは運動量であり、強度ではない。歩数の増加を目標に、個々の状況に合わせてそれを実践すれば、健康にベネフィットがもたらされる」と述べている。研究グループは今後、今回の研究結果を軸に、より大規模な臨床試験に着手することを考えているという。
[2023年9月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら