糖尿病治療で処方される頻度の高い、メトホルミンという経口血糖降下薬に、皮膚がんの発症予防効果があることを示唆するデータが報告された。米ブラウン大学のTiffany Libby氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of Drugs in Dermatology」に11月26日掲載された。皮膚がんの中で最も一般的な、基底細胞がん(BCC)と扁平上皮がん(SCC)という非黒色腫(メラノーマ)皮膚がんの発症リスクが有意に低下する可能性があるという。Libby氏は、「われわれの研究結果はメトホルミンが、これら非メラノーマ皮膚がんに対する予防薬となり得ることを示すエビデンスと言える」と述べている。
メトホルミンが非メラノーマ皮膚がんの発症を抑制するのではないかとする研究結果は、本研究以前にも報告されていたが、それらの研究は、がんの種類別の解析がなされていない、人種/民族の差が考慮されていないなどの限界点があり、不明点が多く残されていた。Libby氏は、米国立衛生研究所(NIH)が疾患の個別化治療を確立するために行っている「All of Us研究」のデータベースを用いて、メトホルミンの非メラノーマ皮膚がんリスクに対する影響を検討した。
All of Us研究のデータベースには、BCC患者8,047人、SCC患者4,111人が含まれていた。この患者群と、年齢、性別、人種/民族がマッチする対照群を1対4の割合(BCCに対して3万2,188人、SCCに対して1万6,444人)で設定し、メトホルミン処方の有無を比較した。なお、BCCまたはSCCの診断の2年以上前にメトホルミンが1回以上処方されていたケースを「処方あり」と定義した。
メトホルミンの処方率は、BCC群は6.45%、SCC群が9.00%であったのに対して、BCCの対照群は13.08%、SCCの対照群は13.23%だった。単変量解析により、メトホルミンの処方はBCC(オッズ比〔OR〕0.46〔95%信頼区間0.42~0.50〕)、SCC(OR0.65〔同0.58~0.73〕)が少ないことと有意に関連しており、交絡因子を調整した多変量解析でもその関連が有意だった(BCCはOR0.33〔0.29~0.36〕、SCCはOR0.45〔0.40~0.51〕)。ただし、人種/民族別に解析すると、アフリカ系米国人はSCCに関する単変量解析の結果が非有意だった(OR0.61〔0.28~1.22〕)。
研究チームによると、メトホルミンはがん細胞へのエネルギーや栄養素の供給を抑えるように働き、がんの成長や増殖能力を阻害する可能性があるという。また、がん細胞に対する免疫反応を高めたり、炎症を軽減したり、皮膚がんに新たな血管が伸びるのを防ぐようにも働くと考えられるとのことだ。著者らは、「われわれの研究結果に基づけば、メトホルミンによるがん予防の可能性を検討するために、さらなる研究を行うべきではないか」と結論付けている。
米国がん協会(ACS)によると、米国内で毎年、約540万件のBCCまたはSCCが診断されており、そのうち約8割をBCCが占めるという。ただし、非メラノーマ皮膚がんに分類されるこれらの皮膚がんは、一般的に死亡リスクは高くない。ACSのデータでは、非メラノーマ皮膚がんによる死亡者数は年間2,000~8,000人の範囲にとどまっている。
[2025年1月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら