地域在住の高齢者では、厳格な血圧管理による健康上の利点は潜在的なリスクを上回る可能性の高いことが、最新の大規模臨床試験により明らかにされた。試験では、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療を受けた高齢者の約85%で、腎障害などの潜在的なリスクと比較して、得られるベネフィット(ネットベネフィット)の方が大きいことが示されたという。米カリフォルニア大学デービス校のSimon Ascher氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に2月18日掲載された。
収縮期血圧とは、心臓が収縮して全身に血液を送り出す際の血圧のことであり、上の血圧とも呼ばれている。高血圧の高齢者、中でもより高齢の人やフレイル状態の人、多剤併用者での最適な血圧管理目標値については専門家の間で一致した見解が得られていない。
Ascher氏らは今回、SPRINT試験に参加した地域在住の65歳以上の高齢者5,143人を対象に、厳格な血圧管理のネットベネフィットを患者ごとに推定した。SPRINT試験は、収縮期血圧の厳格な管理(120mmHg未満)と標準的な管理(140mmHg未満)のどちらが心血管疾患や死亡リスクをより低減できるかを調査した大規模研究である。本研究では、それぞれの血圧管理目標値における、あらゆる原因による死亡(全死亡)、心血管イベント、認知機能の変化、重度の有害事象の絶対リスク差を算出した。さらに、算出されたそれぞれのリスクに重み付けを行い、その合計を個々の患者のネットベネフィットとし、年齢別(65〜74歳、75歳以上)、SPRINT試験に基づくフレイル状態(健康、ややフレイル、フレイル)、および多剤併用(5剤以上)別に比較した。
その結果、患者が降圧療法によりもたらされ得るベネフィット(死亡、心血管イベント、認知障害のリスク低下)の方が降圧療法に伴うリスク(急性腎障害、失神)よりもはるかに重要と考えるシナリオを想定した場合には、厳格な血圧管理によるネットベネフィットの中央値は4%ポイントとなり、100%の参加者がネットベネフィットを得られることが示された。一方、患者がリスクとベネフィットの重要度を同等と見なすシナリオを想定した場合、厳格な血圧管理によるネットベネフィットの中央値は1%ポイントであり、85%の参加者がネットベネフィットを得られることが示された。
より高齢の参加者やフレイル状態の参加者は、両シナリオにおいてより多くの有害事象が生じた一方で、厳格な血圧管理によるネットベネフィットは大きくなる傾向が認められた。さらに、多剤併用の参加者は、ベネフィットをリスクよりもはるかに重要と考えるシナリオにおいて、より大きなネットベネフィットを得ることが確認された。
研究グループは、「これらの結果は、個人の推定リスクとアウトカムに対する好みを考慮すると、SPRINT試験の対象となる高血圧を有する地域在住の高齢者の多くにおいて、厳格な血圧管理によるベネフィットがリスクを上回ることを示している。特に、厳格な血圧管理に耐えられず、またベネフィットも得られにくいと考えられがちな高リスク集団においても、その利点が認められた点は重要である」と話す。そして、「多くの米国人が血圧を適切にコントロールできていないことを考えると、この結果は非常に重要だ」と付言している。
研究グループは、問題の一因は、高齢で、フレイル状態にあり、多剤併用の高血圧患者に対する厳格な血圧管理に医師が消極的だったことにあると指摘する。「われわれの研究結果は、従来の常識に反して、年齢、フレイル、多剤併用などの要因が厳格な血圧管理に対する障害と見なされるべきではないことを示唆している」と結論付けている。
[2025年2月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら