若年の急性心筋梗塞(AMI)患者は心肺停止(CPA)に至るリスクが高いことや、病院到着時にCPAだった若年AMI患者は院内死亡のオッズ比が14倍以上に上ることなどが明らかになった。愛知医科大学循環器内科の安藤博彦氏らが、日本心血管インターベンション治療学会の「J-PCI Registry」のデータを解析した結果であり、詳細は「JACC: Asia」10月発行号に掲載された。
動脈硬化性疾患の危険因子に対する一次予防が普及したことや、イベント発生後の積極的な二次予防が行われるようになったことで、高齢者のAMIは減少傾向にあると報告されている。その一方で、健診の対象外であることが多く一次予防がなされにくい若年世代のAMIは、依然として抑制傾向が見られない。ただ、若年者でのAMI発生件数自体が少ないため、この世代のAMI患者の危険因子や院内転帰などについての不明点が多い。安藤氏らは、J-PCI Registryのデータを用いてそれらを検討した。なお、J-PCI Registryには、国内で行われている経皮的冠動脈形成術(PCI)の9割以上が登録されている。
解析対象は、2014~2018年にJ-PCI Registryに登録された患者のうち、AMIに対する緊急PCIが施行されていた20~79歳の患者21万3,297人。このうち50歳未満を若年群としたところ、11.2%が該当した。
動脈硬化危険因子を比較すると、若年群は高齢群に比べて、男性(92.1対80.9%)、喫煙者(62.8対41.8%)、脂質異常症(65.5対58.7%)が多いという有意差が認められた。その反対に、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)は高齢群で有意に多かった(全てP<0.001)。血管造影検査の結果からは、多枝病変や左冠動脈主幹部(LMT)閉塞が若年群で少ないことが示された。
病院到着時にCPAだった患者は全体の6.6%だった。年齢(10歳ごと)、性別、喫煙、高血圧・糖尿病・脂質異常症・CKD・心不全・心筋梗塞の既往、多枝病変、LMT閉塞を交絡因子として調整した多変量解析の結果、若年であるほどCPAのオッズ比(OR)が高いことが明らかになった。具体的には70代を基準として、60代はOR1.279(95%信頼区間1.223~1.337)、50代はOR1.441(同1.365~1.521)、40代はOR1.548(1.447~1.655)、30代はOR1.650(1.430~1.903)と、いずれも有意にハイリスクだった。20代はOR1.389(0.856~2.253)だった。なお、50歳未満の若年群で、病院到着時にCPAだったのは1,711人であり、若年群の患者の7.2%、病院到着時にCPAだった患者の12.2%を占めていた。
一方、院内死亡率は全体で2.1%であり、若年であるほどオッズ比が低かった。50歳未満の若年群での院内死亡率は1.4%だった。ただし、これを病院到着時にCPAだった群とそうでない群に二分して比較すると、前者は13.6%、後者は0.46%と顕著な差が認められた。前記の交絡因子を調整後、病院到着時にCPAだった若年AMI患者の院内死亡のオッズ比は、14.21(9.201~21.949)と計算された。
著者らは、本研究の限界点として、PCIが行われた症例のみを対象に解析していること、川崎病や早発性AMIの家族歴など、若年者に多い危険因子の影響を考慮していないことなどを挙げている。その上で、「若年AMI患者はCPAのリスクが高く、若年患者のCPAは院内死亡率と強い関連が認められた。この結果は、若年者に対する動脈硬化性疾患一次予防の重要性を強調している。その予防戦略を確立することによって、若年者の心臓突然死と死亡率を大きく抑制できるのではないか」と結論付けている。
[2023年3月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら