身体活動の量や時間とメンタルヘルスとの間に、U字型の関連があるとする研究結果が報告された。東京医科大学精神医学分野の志村哲祥氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に1月13日掲載された。
スポーツや運動、または仕事や家事なども含む「身体活動」は、一般的にはメンタルヘルスに良い影響を与えると考えられている。ただし、身体活動が多ければ多いほどメンタルヘルスがより良好になるのかという用量反応関係は不明。多すぎる身体活動がメンタルヘルスの悪化と関連しているとする報告もあるが、検証が十分行われておらず、最適な身体活動レベルも明らかになっていない。志村氏らはこのような状況を背景として、自記式アンケートを用いた日本人成人を対象とする研究を行った。
このトピックに関する既報研究を基に、有意な結果を得るための最適なサンプル数は105~651と計算された。有効回答率を50%と予測し、同大学の関係者を通じて募集された都内の一般住民(メンタルヘルス関連の治療を受けていない人)1,237人からアンケートの回答を得た。そのうちデータ欠落などのない有効回答者数は526人(平均年齢41.2±11.9歳、男性43.3%)だった。
アンケートでは、身体活動レベルを国際標準化身体活動質問票(IPAQ)で把握。IPAQは、余暇時間での運動と、家事や仕事、移動のための身体活動を質問し、その回答から1週間当たりの身体活動の量(MET分/週)と身体活動の時間(時/週)を推計した。そのほかに、抑うつ(PHQ-9)、不安(STAI-Y)、心理的レジリエンス(CD-RISC)、ストレスによる睡眠への影響(FIRST)などを把握し、身体活動レベルとの関連を解析した。
解析対象者全体の身体活動量は合計で平均2,480METs分(標準偏差±3,467METs分)/週で、身体活動時間は合計で平均10.4±14.3時間/週だった。なお、「METs」は運動量の単位で、例えば、料理は2METs、歩行は3METsに相当する。60分のウォーキングをすると、180METs分の運動量となる。
解析の結果、身体活動レベル(量と時間の双方)とメンタルヘルス評価指標との間に線形の関連はなく、U字型の有意な関連があることが分かった。つまり、身体活動が多ければ多いほどメンタルヘルスの評価指標が良好になるわけではなく、少なくても多くても不良となりやすい可能性が示唆された。本研究で示された、メンタルヘルス評価指標が最も良好な値となる身体活動レベルは以下の通り。
まず、身体活動量との関連では、うつレベルは6,953METs分/週、状態不安(一過性の不安)は5,277METs分/週、特性不安(不安を抱きやすい傾向)は5,678METs分/週、ストレスによる睡眠への影響は9,152METs分/週で、それぞれ最小となっていた。心理的レジリエンスに関しては、身体活動量と統計的に有意な関連は示されなかった。次に、身体活動時間との関連では、うつレベルは25.7時間/週、状態不安は21.6時間/週、特性不安は22.6時間/週、ストレスによる睡眠への影響は31.2時間/週、心理的レジリエンスは25.4時間/週で、それぞれ最小となっていた。
この結果を著者らは、「身体活動レベルと、さまざまなメンタルヘルス評価指標は、線形の関連ではなく、U字型の関連であることが確認された。週に約21~31時間の身体活動(毎日3~4.5時間)、または5.3~9.2kMETs分/週の身体活動である場合に、最適なメンタルヘルス状態であり、このレベルを下回るか上回る身体活動は、メンタルヘルスの評価指標の悪化と関連していた」と総括している。5.3~9.2kMETs分/週の身体活動とは、体重が60kgの人の場合、毎日750~1,300kcal程度を消費する身体活動に相当する。志村氏は、「デスクワークの人はなるべく体を動かすことを意識することが大切であり、一方で、仕事でかなり体を使っている人は、オフにはゆっくり過ごしても良いのかもしれない」と述べている。
なお、本研究の限界点としては、横断研究であるため因果関係は不明であること、研究参加者が大学関係者を介して募集されており、一般人口の代表とは言えないこと、身体活動レベルを主観的評価で判定していること、研究の実施が新型コロナウイルス感染症パンデミック前であり、現在は人々の身体活動量やメンタルヘルス状態に変化が生じている可能性のあることなどが、論文中に記されている。
[2023年4月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら