英国・オックスフォード大学のSeena Fazel氏らは、世界中で広く精神疾患患者に処方されている抗精神病薬および気分安定薬と、暴力犯罪リスクとの関連について、スウェーデンの状況について調べた。その結果、暴力犯罪の抑制に寄与している可能性が判明したという。精神疾患患者へのこれらの薬の処方に関し、疾患の再発予防や症状の軽減については明確な有効性のエビデンスが示されているが、暴力犯罪など有害アウトカムへの効果については明らかにされていなかった。結果を受けて著者は、「精神疾患患者の治療選択において、これらの薬の暴力や犯罪への効果について考慮がなされるべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2014年5月8日号掲載の報告より。
スウェーデン全国レジストリ精神疾患患者8万2,647例を解析
研究グループは、抗精神病薬および気分安定薬の暴力犯罪発生への影響を調べるため、スウェーデン全国レジストリを用いて、2006~2009年に抗精神病薬または気分安定薬の処方を受けていた8万2,647例について、精神疾患の診断歴と、それ以降の犯罪歴を調べた。
個別分析法にて、追跡期間中に処方薬を受けていた人vs. 処方を受けていなかった人の暴力犯罪率を比較した。比較は各被験者のあらゆる交絡因子について補正を行った。
主要アウトカムは暴力犯罪の発生で、スウェーデン国家犯罪レジスターで確認した。
処方を受けていた患者の暴力犯罪は、非処方患者よりも45%抑制
追跡期間中に、スウェーデン人の男性4万937例が両薬の処方を受けていた。このうち2,657例(6.5%)が、暴力犯罪で有罪判決を受けていた。
同様に女性は4万1,710例が処方を受けており、そのうち暴力犯罪で有罪判決を受けていたのは604例(1.4%)であった。
同期間中の非処方群と比較して、抗精神病薬処方を受けていた患者の暴力犯罪発生率は45%低かった(ハザード比[HR]:055、95%信頼区間[CI]:0.47~0.64)。また、気分安定薬の処方を受けていた患者については24%低かった(同:0.76、0.62~0.93)。
ただし、診断-気分安定薬と暴力犯罪抑制との関連について、潜在的に有意な違いがあることが確認されたのは、双極性障害患者についてのみであった。
感度分析による抗精神病薬の暴力抑制率は、異なるアウトカム指標(あらゆる暴力、薬物関連暴力、重大ではない暴力、暴力事件での逮捕)でも22~29%の間に留まった。抑制効果は、低用量処方患者よりも高用量患者のほうが強いことは認められた。
また、デポ薬でも暴力犯罪の顕著な減少が認められた(併用経口薬補正後HR:0.60、95%CI:0.39~0.92)。