新規第XI因子阻害薬、TKA後のVTEを予防/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2014/12/22

 

 第XI因子阻害薬FXI-ASO(ISIS 416858)は、人工膝関節置換術(TKA)後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防に有効で、出血リスクに関しても良好な安全性を有することが、オランダ・アムステルダム大学のHarry R Buller氏らが行ったFXI-ASO TKA試験で示された。TKA後のVTEの予防には従来、外因系凝固因子である第Xa因子を阻害するエノキサパリン(ENO)などが使用されているが、これらの薬剤は有効ではあるものの出血のリスクを伴う。一方、内因系凝固因子である第XI因子を減少させると、出血を起こさずに血栓を抑制することが知られていた。FXI-ASOは、第2世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、肝臓において第XI因子mRNAの発現を特異的に低下させる可能性がある。NEJM誌オンライン版2014年12月7日号掲載の報告。

2種の用量と標準治療を無作為化第II相試験で評価
 FXI-ASO TKA試験は、TKA後のVTEの予防における2種の用量のFXI-ASOとENOの有効性と安全性を比較する非盲検無作為化第II相試験(資金提供:Isis Pharmaceuticals社)。対象は、待機的初回片側TKAを施行された年齢18~80歳の患者であった。

 被験者は、FXI-ASO 200mg/日、同300mg/日を皮下投与する群またはENO 40mg/日を皮下投与する群に無作為に割り付けられた。FXI-ASOの投与は手術の36日前(Day 1)に開始し、第1週目はDay 3、5に、その後は週1回、4週間(Day 8、15、22、29)投与した。手術日のDay 36には術後6時間に投与し、Day 39にも投与した。

 有効性の主要評価項目はVTEの発症(静脈造影または症候性のイベントの報告で評価)とし、安全性の主要評価項目は大出血または大出血以外の臨床的に意義のある出血であった。有効性については、非劣性の評価を行い、非劣性が確認された場合は優越性の評価を実施した。

200mg群27%、300mg群4%、ENO群30%
 2013年7月~2014年3月までに5ヵ国19施設から300例が登録され、FXI-ASO 200mg群に147例(平均年齢63歳、女性82%)、同300mg群に78例(63歳、78%)、ENO群には75例(64歳、83%)が割り付けられた。有効性解析は274例(200mg群:134例、300mg群:71例、ENO群:69例)のper-protocol集団で行われ、安全性解析は293例(144例、77例、72例)で実施された。

 Day 36~39のFXI-ASOの平均値(±標準誤差)は、FXI-ASO 200mg群が0.38±0.01U/mL、300mg群が0.20±0.01U/mL、ENO群は0.93±0.02U/mLであった。

 per-protocol解析によるVTEの発症率は、FXI-ASO 200mg群が27%(36/134例)、300mg群が4%(3/71例)、ENO群は30%(21/69例)であった。ENO群との比較では、FXI-ASO 200mg群の非劣性および300mg群の優越性(p<0.001)が確認された。

 大出血または大出血以外の臨床的に意義のある出血の発症率は、FXI-ASO 200mg群が3%(4/144例)、300mg群が3%(2/77例)、ENO群は8%(6/72例)であり、ENO群との比較で有意な差は認めなかった(それぞれ、p=0.09、p=0.16)。大出血はFXI-ASO 300mg群の1例のみに認められた。また、輸血はそれぞれ38%(55例)、29%(22例)、32%(23例)で行われた。

 重篤な有害事象はFXI-ASO 200mg群の3例(一過性脳虚血発作、術後瘢痕部瘻孔形成、結紮部瘻孔形成)、300mg群の1例(人工膝関節周囲感染症)に、恒久的な治療中止の原因となった有害事象はそれぞれ1例(そう痒と既存の動脈性高血圧の増悪)、1例(手術部位の出血)にみられたが、ENO群ではいずれも認めなかった。注射部位関連有害事象(紅斑、疼痛、そう痒、腫脹、血腫)はそれぞれ32例、25例、2例にみられた。

 著者は、「これらの知見は、第XI因子の術後VTEへの関与を示すもの」とし、「待機的初回片側TKA施行例における第XI因子の抑制は術後VTEの予防に有効であり、出血リスクに関する安全性も良好である」と結論している。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事