多枝冠動脈疾患に対するエベロリムス溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の長期的な死亡リスクは、冠動脈バイパス術(CABG)とほぼ同等であることが、米国・ニューヨーク大学のSripal Bangalore氏らの検討で示された。多枝冠動脈疾患患者の長期的死亡率は、CABG施行後のほうがPCI施行後よりも低いことが、臨床試験や患者登録研究で報告されているが、それらの解析では第2世代薬剤溶出ステントによるPCIの評価は行われていないという。NEJM誌2015年3月26日号(オンライン版2015年3月16日号)掲載の報告より。
患者登録データをマッチングして比較
研究グループは、多枝冠動脈疾患に対するエベロリムス溶出ステントによるPCIの転帰をCABGと比較するために、患者登録に基づく解析を行った(Abbott Vascular社の助成による)。多枝冠動脈疾患は、2本以上の主要心外膜冠動脈に重篤な狭窄(≧70%)がみられる場合とし、左冠動脈主幹部の≧50%の狭窄や発症後24時間内の心筋梗塞の患者などは除外した。
データの収集には、ニューヨーク州保健局の2つの患者登録データベース(Cardiac Surgery Reporting System:CSRS、Percutaneous Coronary Intervention Reporting System:PCIRS)を使用した。傾向スコアマッチング法を用い、ベースラインの背景因子が類似する患者コホートを同定した。主要評価項目は全死因死亡、副次的評価項目は心筋梗塞、脳卒中、再血行再建術とした。
2008年1月1日~2011年12月31日の間に血行再建術を受け、適格基準を満たした多枝冠動脈疾患患者3万4,819例(PCI:1万6,876例[48.5%]、CABG:1万7,943例[51.5%])を同定し、各群の9,223例ずつをマッチさせた(平均年齢65歳、男性73%)。
心筋梗塞と再血行再建のリスクが高く、脳卒中は低い
平均フォローアップ期間2.9年における年間死亡率は、PCI群が3.1%、CABG群は2.9%であり、両群間に差はなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.93~1.17、p=0.50)。
心筋梗塞の年間発症率は、PCI群が1.9%であり、CABG群の1.1%に比べ有意に高かった(HR:1.51、95%CI:1.29~1.77、p<0.001)。このPCIの高い心筋梗塞リスクは、主に自然発症心筋梗塞(HR:1.55、95%CI:1.31~1.82、p<0.001)によるもので、手技関連心筋梗塞のリスクには有意な差はなかった(HR:1.36、95%CI:0.68~2.71、p=0.39)。また、完全血行再建例では両群間に差はなく、PCIの高いリスクは主に不完全血行再建例でのものだった(交互作用検定:p=0.02)。
再血行再建術の年間施行率も、PCI群が7.2%と、CABG群の3.1%に比し有意に高率であった(HR:2.35、95%CI:2.14~2.58、p<0.001)。この差は、2枝病変は3枝病変に比べ、また完全血行再建例は不完全血行再建例に比べて顕著ではなかった(交互作用検定:p=0.02)ものの、いずれもCABG群で良好であった。
一方、脳卒中の年間発症率は、PCI群が0.7%であり、CABG群の1.0%よりも有意に良好であった(HR:0.62、95%CI:0.50~0.76、p<0.001)。この差は、主に30日以内(HR:0.18、95%CI:0.11~0.29、p<0.001)の短期的なリスクによるもので、30日以降のランドマーク解析では両群間に差はなかった(HR:1.05、95%CI:0.81~1.37、p=0.69)。
なお、30日以内の短期的転帰はPCI群が良好で、死亡(0.6 vs. 1.1%、HR:0.49、95%CI:0.35~0.69、p<0.001)と脳卒中(0.2 vs. 1.2%、HR:0.18、95%CI:0.11~0.29、p<0.001)には有意差がみられた。心筋梗塞には差がなかった(0.5 vs. 0.4%、HR:1.37、95%CI:0.89~2.12、p=0.16)。
著者は、「エベロリムス溶出ステントによるPCIは、短期的には死亡と脳卒中のリスクがCABGよりも優れるが、長期的な死亡リスクには差がなかった。PCIは心筋梗塞(不完全血行再建例)と再血行再建のリスクが高く、CABGは脳卒中のリスクが高かった」とまとめ、「PCIで完全血行再建が期待できる場合の選択は、CABGの短期的な死亡および脳卒中のリスクと、PCIの長期的な再血行再建のリスクを比較検討して決めるべき」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)