冠動脈疾患の主要かつ古典的なリスク因子である喫煙・脂質異常症・高血圧症(3リスク)を低減することを目的とした集団ベース介入の1次予防プログラムは、疾患発症や死亡の低下に寄与する有効な手段なのか。フィンランド国立健康福祉研究所のPekka Jousilahti氏らが、同国東部住民を対象とした40年にわたる観察研究(FINRISK研究)の結果、同プログラムが冠動脈疾患死の低下に寄与したことを確認したと報告した。また、高リスクの人への2次予防および急性冠症候群の治療の介入についても分析し、それらが付加的ベネフィットをもたらしたことも確認されたという。BMJ誌オンライン版2016年3月1日号掲載の報告より。
喫煙・脂質異常症・高血圧症への介入による変化と死亡への影響を調査
フィンランドでは、1950年代から食事や生活習慣の変化に伴い、冠動脈疾患死亡率の上昇がみられ、60年代後半には世界で最も同死亡率が高い国となった。とくに働き盛り世代の東部住民男性で高率だったという。そこで72年から冠動脈疾患予防プロジェクトをスタート。その主目的は、働き盛り世代男性の3リスクを低減するというもので、地域保健活動を介し行動変容を促すこと、および高リスクの人のスクリーニングと薬物治療をサポートするというものであった。
研究グループは94年に、介入の成果を評価。20年(72~92年)の間に死亡率は低下し、リスク因子の変化が寄与したことを報告している。
今回、同一サンプルを対象に、その後の20年間の冠動脈疾患死亡の傾向を調べ、3リスクの影響を調べた。
FINRISK研究(1972~2012年)の参加者は、30~59歳のフィンランド東部住民男女3万4,525例であった。
主要評価項目は、年齢で標準化した冠動脈疾患の予測死亡率と実際の死亡率であった。予測変化を、リスク因子データ(72年から5年ごと計9回行われたサーベイ対象集団から集めたデータ)を用いたロジスティック回帰分析で算出。実死亡率を、National Causes of Death Registerから入手し分析した。
直近10年の冠動脈疾患死低下、約3分の2は3リスク低減が寄与
40年の間、2007~12年に血清コレステロール値が男女共わずかに上昇していたことを除けば、3リスクの値は低下した。男性の3リスクデータは、1972年当時は喫煙52.6%、血清総コレステロール(TC)値6.77mmol/L、収縮期血圧(SBP)値147.1mmHgであったが、2012年には29.3%、5.44mmol/L、135.9mmHgにいずれも低下した。女性については、喫煙者はもともと70年代は非常に少なく11.4%であった。2002年に22%まで上昇したが、その後は低下し12年は19.4%であった。TC値は6.69から5.30mmol/Lに、SBP値は149.2から129.1mmHgに低下した。
1969-72~2012年の間に、35~64歳住民の冠動脈疾患死亡率は、男性が82%減少(10万人当たり643例から118例)、女性が84%減少(同114例から17例)していた。
研究開始当初10年間で、3リスク因子の変化が、実死亡率の低下に寄与したことが確認された。また80年代中旬以降は、予測死亡率よりも実死亡率が下回った。
直近10年のデータの分析から、死亡減少の約3分の2(男性69%、女性66%)は3リスクの変化によるもので、残る3分の1がその他の要因であることが確認されたという。
これらの結果を踏まえて著者は、「集団ベース介入の1次予防プログラムにより、冠動脈疾患の疾病負荷および死亡は低減可能である。高リスクの人の2次予防や急性冠症候群の治療が、付加的ベネフィットをもたらす」と結論している。