リノール酸を多く含む食事により冠動脈疾患または全死亡のリスクが低下する、という伝統的な仮説に否定的な見解が示された。リノール酸を多く含む食事は飽和脂肪酸を多く含む食事と比較して、血清コレステロール値を低下させるが、その低下が大きすぎるとむしろ死亡リスクは高まり、これまで飽和脂肪酸を植物性脂肪に置き換える効果が過大評価されてきた可能性があるという。米国立衛生研究所(NIH)のChristopher E Ramsden氏らが、Minnesota Coronary Experiment(MCE)研究の未発表文書を発見し、生データを再解析するとともに、類似の無作為化比較試験も含めてシステマティックレビューならびにメタ解析を行った結果、報告した。BMJ誌オンライン版2016年4月12日号掲載の報告。
MCE試験の未発表を再解析、類似の無作為化比較試験を含めてメタ解析
MCE研究(1968~73年)は、飽和脂肪酸を、リノール酸が豊富な植物油で置き換えることで、血清コレステロール値が下がり冠動脈疾患や全死亡は減少するとの仮説を検証する目的で、米国ミネソタ州の介護施設1施設および州立精神科病院6施設の患者を対象に行った、無作為化二重盲検比較試験である。介入群には、飽和脂肪酸をリノール酸(コーン油またはコーン油の多価不飽和脂肪酸を多く含むマーガリン)に置き換えた食事を、対照群には動物性脂肪など飽和脂肪酸の多い通常の食事が1年以上提供された。
研究グループは、無作為化された男女9,423例(20~97歳)について、解析が完了した未発表文書、ならびに1年以上の本研究の食事を取った2,355例の血清コレステロール値に関するデータ、剖検が実施された149例のファイルを精査した。さらに、システマティックレビューにより、飽和脂肪酸の代わりにリノール酸が豊富な植物油を提供し血清コレステロール値が低下した無作為化比較試験5件(計1万808例)を確認し、そのデータも包含したメタ解析を実施した。
主要評価項目は、全死因死亡、血清コレステロール値と死亡率との関連性、剖検で検出された冠動脈硬化症および心筋梗塞とした。
介入群で血清コレステロール値は有意に減少するも、死亡リスクは上昇
介入群では、対照群と比較して血清コレステロール値が有意に減少した(ベースラインからの平均変化:-13.8% vs. -1.0%、p<0.001)。Kaplan Meier法により死亡率を評価した結果、全体またはサブグループいずれにおいても、介入による死亡への効果はみられなかった。
共変量(ベースラインの血清コレステロール値、年齢、性別、食事順守率、BMI、収縮期血圧)で調整したCox回帰モデル分析において、血清コレステロール値が30mg/dL低下するごとに、死亡リスクは22%上昇することが認められた(ハザード比[HR]:1.22、95%信頼区間[CI]:1.14~1.32、p<0.001)。介入群において、冠動脈硬化症や心筋梗塞に対する有効性は認められなかった。
メタ解析の結果、コレステロールを低下させる介入が冠動脈疾患による死亡(HR:1.13、95%CI:0.83~1.54)、または全死因死亡(1.07、95%CI:0.90~1.27)を低下させるというエビデンスは示されなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)