高齢の市中肺炎患者は、心不全のリスクが高いことが示されているが、他の年齢層や肺炎の重症度との関連は不明とされる。カナダ・アルバータ大学のDean T Eurich氏らは、高齢患者だけでなく、むしろ若年の市中肺炎患者で心不全リスクが高いとの研究結果を、BMJ誌2017年2月13日号で報告した。研究グループは、「これらの知見は、年齢にかかわらず、退院後の治療計画や予防戦略の立案時、また呼吸困難のエピソードを評価する際に考慮すべき」と指摘している。
年齢別、重症度別の寄与リスクを評価する前向きコホート試験
本研究は、市中肺炎が心不全の発症に及ぼす寄与リスクを、患者の年齢別、肺炎の重症度別に評価するプロスペクティブなコホート試験である(筆頭著者はカナダ政府拠出の研究助成を受けた)。
2000~02年に、エドモントン市(カナダ、アルバータ州)の6つの病院または7つの救急診療施設で市中肺炎と診断された心不全の既往歴のない成人患者4,988例が登録された。患者1例に対し、年齢、性別、治療状況(入院、外来)をマッチさせた最大5例の肺炎に罹患していない対照群を設定した(2万3,060例)。2012年時の心不全による入院リスクおよび心不全/死亡の複合エンドポイントについて、多変量Cox比例ハザード解析を用いて評価を行った。
ベースラインの平均年齢は肺炎群が55(SD 20)歳、対照群は53(SD 20)歳(p<0.001)、男性がそれぞれ53.1%、52.7%(p=0.60)で、外来患者は63.4%、65.5%であった。併存疾患の有病率は全般に肺炎群が高かった。フォローアップ期間中央値は9.9年(IQR:5.9~10.6)だった。
入院、外来とも肺炎群が高リスク
心不全の発症率は、肺炎群が11.9%(592例)と、対照群の7.4%(1,712例)に比べ有意に高く、100人年当たりの頻度はそれぞれ1.7、0.9であった(補正ハザード比[HR]:1.61、95%信頼区間[CI]:1.44~1.81、p<0.001)。また、入院患者(肺炎群:18.3% vs.対照群:11.0%、1.94、1.64~2.29、p<0.001)、外来患者(8.2% vs.5.6%、1.33、1.12~1.57、p<0.001)とも、肺炎群で心不全発症率が高かった。
90日以内の心不全による入院(1.4% vs.0.6%、HR:1.52、95%CI:1.08~2.13、p=0.015)および1年以内の心不全による入院(3.3% vs.1.4%、1.86、1.50~2.32、p<0.001)も、肺炎群が高率であった。
65歳以下では、心不全発症率の両群の絶対差は小さかった(4.8% vs.2.2%)が、相対リスクは高かった(HR:1.98、95%CI:1.55~2.53)のに対し、65歳以上では、両群の絶対差が大きかった(24.8% vs.18.9%)が、相対リスクは低かった(1.55、1.36~1.77)。この傾向は、入院患者および外来患者にも観察されたが、年齢にかかわらず肺炎群の入院患者は心不全のリスクが高く、とくに若い患者でその傾向が強かった。
全死因死亡率は、肺炎群が38.4%(1,917例)と、対照群の23.9%(5,509例)に比し有意に高く、それぞれ5.2/100人年、2.9/100人年であった(p<0.001)。心不全と死亡の複合エンドポイントの発生率は、肺炎群が40.8%であり、対照群の26.2%に比べ有意に高かった(補正HR:1.53、95%CI:1.44~1.63、p<0.001)。また、入院患者(64.5% vs.39.8%、1.77、1.62~1.93、p<0.001)、外来患者(27.1% vs.19.0%、1.34、1.23~1.47、p<0.001)とも、肺炎群で発生率が高かった。
著者は、「肺炎イベント後の心不全の10年リスクは約12%、対照と比較した心不全の相対リスクの上昇は50%以上であった」とまとめ、「肺炎は、単なる心不全リスクの高い集団のマーカーか、それとも心血管疾患の発症の根本的なメカニズムに関与しているかの議論はともかく、患者と協力してこれらの知見を臨床に生かすべきである」としている。
(医学ライター 菅野 守)