院外心停止後に蘇生に成功した非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者では、即時的に冠動脈造影を行い、必要に応じて経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行するアプローチは、神経学的回復後に遅延的にこれを施行する戦略と比較して、90日生存率の改善は得られないことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのJorrit S. Lemkes氏らが実施したCOACT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月18日号に掲載された。院外心停止の主な原因は虚血性心疾患であり、現行の欧米のガイドラインでは、蘇生後のST上昇型心筋梗塞(STEMI)へは即時的な冠動脈造影とPCIが推奨されている。一方、蘇生後のNSTEMIへの即時的な施行に関しては、無作為化試験のデータはなく、観察研究では相反する結果の報告があるという。
NSTEMIへの即時的施行を評価するオランダの無作為化試験
本研究は、オランダの19施設が参加した非盲検無作為化試験であり、2015年1月~2018年7月に患者登録が行われた(オランダ心臓研究所などの助成による)。
院外心停止から蘇生し、心電図検査でST上昇がみられない患者552例のうち、後に同意を撤回した患者を除く538例(平均年齢65.3±12.6、男性79.0%)を対象とした。
これらの患者を、即時的に冠動脈造影を行う群(273例)または神経学的回復後に行う遅延的冠動脈造影群(265例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも、必要に応じてPCIが施行された。
主要エンドポイントは90日生存率とした。副次エンドポイントは、脳機能が良好または軽度~中等度障害の状態での90日生存率、心筋傷害、カテコールアミン投与期間、ショックのマーカー、心室頻拍の再発、人工呼吸器の使用期間、大出血、急性腎障害、腎代替療法の必要性、目標体温の到達時間、集中治療室(ICU)退室時の神経学的状態などであった。
90日生存率:64.5% vs.67.2%、目標体温到達時間が長い
冠動脈造影の施行率は、即時的冠動脈造影群が97.1%、遅延的冠動脈造影群は64.9%であった。心停止から冠動脈造影施行までの時間中央値は、それぞれ2.3時間、121.9時間、無作為割り付けから冠動脈造影までの時間中央値は、0.8時間、119.9時間だった。
急性血栓性閉塞が即時群3.4%、遅延群7.6%にみられた。PCIはそれぞれ33.0%、24.2%で、CABGが6.2%、8.7%で行われ、薬物療法または保存的治療は61.5%、67.5%で実施された。
90日時の生存率は、即時群が64.5%(176/273例)、遅延群は67.2%(178/265例)と、両群に有意な差を認めなかった(オッズ比[OR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.62~1.27、p=0.51)。
副次エンドポイントのうち、目標体温到達時間中央値が、即時群5.4時間と、遅延群の4.7時間に比べ有意に長かった(幾何平均値の比:1.19、95%CI:1.04~1.36)。他の副次エンドポイントには、両群に有意な差はなかった。
著者は、「心停止後に蘇生したNSTEMIで、冠動脈造影の即時的施行により生存ベネフィットが得られたとする以前の観察研究は、選択バイアスが影響した可能性がある」と指摘している。
また、これらの結果の理由として、(1)PCIは、急性血栓性閉塞を有する冠動脈疾患患者で転帰の改善と関連し、安定冠動脈疾患ではこのような効果はないが、本試験では急性血栓性冠動脈閉塞は5%のみで、ほとんどが安定冠動脈疾患であった、(2)神経学的損傷による死亡が多く、心臓が原因の死亡の3倍以上であった、(3)目標体温到達までに長い時間を要したことが、即時的冠動脈造影の潜在的なベネフィットを弱めた可能性があるなどの点を挙げている。
(医学ライター 菅野 守)