急性期虚血性脳卒中への翼口蓋神経節刺激は有益か/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2019/06/10

 

 翼口蓋神経節(sphenopalatine ganglion:SPG)刺激療法は、血栓溶解療法の適応がなく、発症から8~24時間の急性期虚血性脳卒中の患者に対し安全に施行可能であり、とくに皮質病変を有する集団では機能アウトカムの改善をもたらす可能性があることが、イスラエル・Shaarei Zedek医療センターのNatan M. Bornstein氏らが行ったImpACT-24B試験で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2019年5月24日号に掲載された。SPG刺激は、前臨床研究において側副循環の血流増加、血液脳関門の安定化、梗塞サイズの縮小が報告され、ヒトでの無作為化パイロット試験では有益性をもたらす可能性が示唆されている。

mRSの改善をシャム刺激と比較する無作為化試験
 本研究は、18ヵ国73施設が参加した二重盲検シャム対照無作為化試験であり、2011年6月~2018年3月に患者登録が行われた(BrainsGateの助成による)。

 対象は、年齢が男性40~80歳、女性40~85歳で、再灌流療法が施行されておらず、発症から8~24時間の前方循環系急性期虚血性脳卒中の患者であった。被験者は、SPG刺激またはシャム刺激を行う群に無作為に割り付けられた。SPG刺激は、画像ガイドシステムを用い、局所麻酔下に神経刺激電極(長さ23mm、直径2mm)をSPG近傍の翼口蓋管に植え込み、1日4時間、5日間施行された。

 有効性の主要エンドポイントは、3ヵ月後の修正Rankinスケール(mRS)スコアの期待値を超える改善とした。ベースラインのNIH脳卒中スケール(NIHSS)スコア、年齢、脳卒中部位(左脳/右脳)によって事前に規定された予後モデルに基づくmRSの期待値と比較して1点以上低かった場合を、期待値を超える改善と定義した。このエンドポイントは、修正intention-to-treat(mITT)集団および確認された皮質病変(CCI)を有する集団で解析を行った。

 安全性の主要エンドポイントは、3ヵ月時のすべての重篤な有害事象(SAE)、植え込み/除去に関連するSAE、刺激に関連するSAE、神経症状増悪(発症から10日以内の神経学的イベントに関連するNIHSSスコアの4点以上の上昇)、および死亡であった。

CCI集団で、刺激の強さと主要エンドポイントに逆U字型用量反応関係
 1,000例(mITT集団、年齢中央値70歳[IQR:63~77]、女性51%)が1回以上の治療を受けた(SPG刺激群481例、シャム刺激群519例)。CCI集団は520例(71歳[64~77]、49%)で、SPG刺激群244例、シャム刺激群276例だった。

 mITT集団では、3ヵ月時の身体機能が期待値よりも改善した患者の割合は、SPG刺激群が49%(234/481例)と、シャム刺激群の45%(236/519例)よりも高かったが、有意差は認めなかった(オッズ比[OR]:1.14、95%信頼区間[CI]:0.89~1.46、p=0.31)。一方、CCI集団では、期待値よりも改善した患者の割合は、SPG刺激群が50%(121/244例)であり、シャム刺激群の40%(110/276例)に比べ有意に優れた(1.48、1.05~2.10、p=0.0258)。

 CCI集団におけるSPG刺激の強さと主要エンドポイントには、逆U字型の用量反応関係が認められた。すなわち、良好なアウトカムを示した患者の割合は、低強度の40%から中強度では70%に上昇したが、高強度では40%へと、低強度と同じ割合に低下した(p=0.0034)。

 mRS 0~2の割合(mITT集団:p=0.47、CCI集団:p=0.06)、mRS 0~3の割合(p=0.13、p=0.01)、脳卒中関連QOL(SIS-16、p=0.23、p=0.01)、機能障害関連QOL(UW-mRS、p=0.24、p=0.05)にも、CCI集団ではSPG刺激群で良好な傾向が認められた。

 死亡率(SPG刺激群14.2% vs.シャム刺激群12.3%、p=0.38)およびSAE(全体:30.0% vs.28.1%、p=0.50、植え込み/除去関連:0.6% vs.0.0%、p=0.09、刺激関連SAE:0.6% vs.0.4%、p=0.68、神経症状増悪:7.6% vs.6.6%、p=0.49)には、両群に差はみられなかった。

 著者は、「これらの知見は、CCIを有する急性期虚血性脳卒中患者の治療における、SPG刺激療法の臨床導入を支持するものである」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 内山 真一郎( うちやま しんいちろう ) 氏

国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授

赤坂山王メディカルセンター脳神経内科部長

J-CLEAR評議員