脳主幹動脈閉塞による急性虚血性脳卒中(AIS)患者の実臨床治療では、血管内治療開始までの時間の短縮によりアウトカムが改善することが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校David Geffen医学校のReza Jahan氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年7月16日号に掲載された。AISにおける脳主幹動脈閉塞への血管内治療の有益性は時間依存性とされる。一方、治療開始までの時間短縮が、アウトカムや実臨床への一般化可能性に、どの程度の影響を及ぼすかは不明だという。
治療の迅速性とアウトカムの関連を評価するコホート研究
研究グループは、AIS患者における血管内治療の迅速性とアウトカムの関連の評価を目的とする後ろ向きコホート研究を行った(米国心臓協会[AHA]/AHA脳卒中部門[ASA]などの助成による)。
2015年1月~2016年12月の期間に、米国の全国レジストリであるGet With The Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke)に登録されたデータを後ろ向きに解析した。対象は、前方循環系の脳主幹動脈閉塞によるAISで、発症から8時間以内に血管内治療を開始した患者であった。
主要アウトカムは、発症(最終確認時刻)から動脈穿刺までの時間(発症-穿刺時間)および病院到着から動脈穿刺までの時間(到着-穿刺時間)と、有効再開通(modified thrombolysis in cerebral infarction[mTICI]スコア:2b~3[閉塞血管領域の50~100%で再灌流])、退院時の歩行状況・全般的な機能障害(modified Rankin scale[mRS])・退院先、症候性頭蓋内出血(sICH)、院内死亡/ホスピス転院率との関連とした。
発症-穿刺時間30~270分では、15分短縮ごとに退院時自立歩行が1.14%増加
米国の231施設から6,756例が登録された。平均年齢は69.5(SD 14.8)歳、女性が51.2%(3,460例)で、治療前の米国国立衛生研究所脳卒中尺度(NIHSS)スコア中央値は17点(IQR:12~22)であった。
発症-穿刺時間中央値は230分(IQR:170~305)、到着-穿刺時間中央値は87分(62~116)であった。有効再灌流の達成率は85.9%(5,433/6,324例)だった。
有害事象として、sICHが6.7%(449/6,693例)、院内死亡/ホスピス転院率が19.6%(1,326/6,756例)に認められた。退院時に、自立歩行が36.9%(2,132/5,783例)、機能的自立(mRS:0~2)が23.0%(1,225/5,334例)、機能障害なし(mRS:0~1)が15.9%(847/5,334例)、自宅退院が27.8%(1,876/6,756例)で達成された。
発症-穿刺時間の補正後解析では、時間-アウトカム関連は30~270分が271~480分に比べ急勾配であり、時間が短縮するほどアウトカムが改善した。すなわち、発症-穿刺時間30~270分では、時間が15分短縮するごとに、退院時の自立歩行の達成率が1.14%(95%信頼区間[CI]:0.75~1.53)増加し、院内死亡/ホスピス転院率が0.77%(-1.07~-0.47)低下し、sICHのリスクは0.22%(-0.40~-0.03)減少した。
到着-穿刺時間についても同様に、時間の短縮によりアウトカムの改善が得られた。すなわち、30~270分のウィンドウでは、15分の短縮ごとに、自宅退院の達成率が2.13%(95%CI:0.81~3.44)増加し、院内死亡/ホスピス転院率が1.48%(-2.60~-0.36)低下した。
著者は、「これらの知見は、脳卒中患者における病院到着までの時間、および血管内治療までの時間の短縮に向けた取り組みを支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)