急性症候性肺塞栓症患者では、本症の年間症例数が多い病院(high volume hospitals)へ入院することで、症例数が少ない病院に比べ、30日時の本症に関連する死亡率が低下することが、スペイン・Ramon y Cajal Institute for Health Research(IRYCIS)のDavid Jimenez氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月29日号に掲載された。hospital volumeは、内科的/外科的疾患のアウトカムの決定要因として確立されている。一方、急性肺塞栓症発症後の生存に、hospital volumeが関連するかは知られていないという。
16ヵ国353病院が参加したコホート研究
研究グループは、急性症候性肺塞栓症でマネジメントを受けた経験(病院の症例数を反映)と死亡率との関連を評価する目的で、人口ベースのコホート研究を実施した(特定の研究助成は受けていない)。
解析には、16ヵ国の353病院が参加するRegistro Informatizado de la Enfermedad TromboEmbolica(RIETE)レジストリの、2001年1月1日~2018年8月31日のデータを用いた。対象は、急性症候性肺塞栓症の診断が確定した患者3万9,257例であった。
病院は、hospital volume(RIETE参加期間中の平均年間症例数)で4群に分けられた(Q1:症例数<15例/年[253施設、8,596例、平均年齢65.6歳、男性47.1%]、Q2:15~25例/年[52施設、8,130例、67.2歳、46.2%]、Q3:>25~40例/年[28施設、9,750例、68.0歳、47.1%]、Q4:>40例/年[20施設、12,781例、67.7歳、46.7%])。
主要アウトカムは、診断から30日以内の肺塞栓症関連死とした。
30日肺塞栓症関連死亡率は、Q4群がQ1群より44%低い
hospital volumeは施設によって1~112例の幅があり、中央値は7例(IQR:4~16)であった。hospital volumeが高い施設は低い施設に比べ、患者の年齢が高く、併存疾患(がん、慢性肺疾患、うっ血性心不全、最近の出血)が多い傾向がみられた。
30日時のコホート全体の全死因死亡率は5.4%(2,139/3万9,257例)、肺塞栓症関連死亡率は1.7%(668/3万9,257例)であった。hospital volumeを連続変数(1~112例)として解析したところ、30日肺塞栓症関連死の補正後オッズは、hospital volumeが高くなるにしたがって直線的に低下した(線形傾向:p=0.04)。
hospital volumeと肺塞栓症関連死には、有意な逆相関の関連が認められた。すなわち、30日時の肺塞栓症関連死は、Q1群の施設と比較して、Q2群は34%(補正後リスク:1.5% vs.2.3%、補正後オッズ比[OR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.43~1.01、p=0.06)低く、Q3群は39%(1.4% vs.2.3%、0.61、0.38~0.99、p=0.05)、Q4群は44%(1.3% vs.2.3%、0.56、0.33~0.95、p=0.03)低かった。
30日時の全死因死亡率は、Q4群とQ1群に差は認めなかった(補正リスク:5.2% vs.6.4%、補正後OR:0.78、95%CI:0.50~1.22、p=0.28)。また、Q4群とQ1群で、生存例における非致死的な静脈血栓塞栓症の再発(OR:0.76、95%CI:0.49~1.19)および非致死的な大出血(1.07、0.77~1.47)には、ほとんど差はなかった。
著者は、「(1)hospital volumeの低い病院における臨床医の臨床的専門性を改善する戦略の開発、(2)厳選された高リスク患者のサブグループのトリアージと搬送、(3)集学的なpulmonary embolism response teams(PERTs)が、患者アウトカムの改善をもたらすかを評価するために、新たな研究を要する」としている。
(医学ライター 菅野 守)