新たに開発された人工知能(AI)対応心電図(ECG)アルゴリズムを用いた臨床現場即時検査(point of care test:POCT)は、標準12誘導ECGで洞調律の集団の中から心房細動患者を同定できることが、米国・メイヨー・クリニックのZachi I. Attia氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月1日号に掲載された。心房細動は無症状のことが多いため検出されない場合があるが、脳卒中や心不全、死亡と関連する。既存のスクリーニング法は、長期のモニタリングを要するうえ、費用の面と利益が少ないことから制限されている。
機械学習を用い、迅速かつ安価なPOCTを開発
研究グループは、機械学習を用いて、心房細動患者を同定するための迅速かつ安価なPOCTを開発する目的で、後ろ向きのアウトカム予測解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用い、標準12誘導ECG(10秒)で洞調律の患者において、心房細動発現のECG上の特徴を検出するAI対応ECGを開発した。
対象は、1993年12月31日~2017年7月21日の期間に、メイヨー・クリニックのECG検査室で、仰臥位での標準12誘導ECGを1回以上受け、洞調律であった年齢18歳以上の患者であった。ECGで1回以上の心房細動または心房粗動の調律がみられた患者を心房細動とした。全患者およびそのECGのデジタルデータを、訓練データセット、検証データセット、テストデータセットに、7対1対2の割合で無作為に割り付けた。
テストデータセットに適用する確率閾値を選択するために、検証データセットの受信者動作特性曲線(ROC)の曲線下面積(AUC)を算出した。AUCおよび精度、感度、特異度、F1値とともに、その両側95%信頼区間(CI)を算出し、テストデータセットを用いてモデル性能を評価した。
洞調律ECG上のわずかなパターンを検出
18万922例の64万9,931件の洞調律ECGが解析に含まれた。12万6,526例(ECGデータ45万4,789件、患者1例当たりのECG件数3.6[SD 4.8]件)が訓練データセットに、1万8,116例(6万4,340件、3.6[SD 4.8]件)が検証データセットに、3万6,280例(13万802件、3.6[SD 4.9]件)がテストデータセットに割り付けられた。訓練データセットを用いてモデルが構築された。
全体の平均年齢は60.3(SD 16.5)歳、男性が8万9,791例(49.6%)であり、モデルにより1万5,419例(8.5%)で1回以上の心房細動が記録された。検証データセットでは1,573例(8.7%)で、テストデータセットでは3,051例(8.4%)で、それぞれ1回以上の心房細動が検出された。
個々の患者の初回洞調律ECGに関してモデル性能を評価したところ、AI対応ECGによる心房細動検出のROC AUCは0.87(95%信頼区間[CI]:0.86~0.88)、感度は79.0%(77.5~80.4)、特異度は79.5%(79.0~79.9)、F1値は39.2%(38.1~40.3)であり、全体の精度は79.4%(79.0~79.9)であった。
同じ患者の関心期間(心房細動が記録されていない患者は初回ECG施行日以降、記録されている患者は記録されたECG施行日の31日前以降)の最初の1ヵ月に得られたすべての洞調律ECGに関して、モデル性能を評価すると、ROC AUCが0.90(0.90~0.91)へと改善し、感度は82.3%(80.9~83.6)、特異度は83.4%(83.0~83.8)、F1値は45.4%(44.2~46.5)、全体の精度は83.3%(83.0~83.7)へと、それぞれ向上した。
著者は、「これらの知見は、洞調律ECG上のわずかなパターンが、心房細動の発現を示唆する可能性があるとの仮説を支持するものである」とまとめ、「検出されずに見落とされる可能性のある心房細動患者を、安価で非侵襲的、かつさまざまな環境で利用可能なPOCTを用いて同定することは、心房細動のスクリーニングや、原因不明の脳卒中の既往歴のある患者のマネジメントにおいて、重要な実臨床上の意義を有する」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)