成人高血圧患者では、収縮期血圧(SBP)の降圧目標値を120mmHg未満とする強化降圧治療は140mmHg未満とする標準降圧治療に比べ、脳白質病変の容積の増加が少ないものの、その差は大きくないことが、米国・ペンシルベニア大学のIlya M. Nasrallah氏らが行ったSPRINT MIND試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年8月13日号に掲載された。強化降圧治療は、心血管疾患による合併症や死亡を抑制することが証明されているが、脳の健康への影響は明確でないという。疫学データでは、高血圧は脳白質病変の主要なリスク因子とされる。
SPRINT試験のMRIサブスタディ
本研究は、米国の27施設が参加した多施設共同無作為化試験であるSPRINT試験のサブスタディであり、強化降圧治療は脳白質病変容積の増加を抑制するかを評価する目的で行われた(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。
SPRINT試験の対象は、年齢50歳以上、SBPが130~180mmHgで、心血管リスクが高い患者(心血管疾患、慢性腎臓病[CKD、eGFR<60mL/分/1.73m
2]、10年フラミンガム心血管疾患リスク≧15%、年齢75歳以上)であり、糖尿病や脳卒中の既往歴のある患者や認知症の患者は除外された。被験者は、SBPの目標値を120mmHg未満とする強化治療群または140mmHg未満とする標準治療群に無作為に割り付けられた。
SPRINT試験は2010年11月8日に開始され、2015年8月20日、主解析の主要アウトカム(複合心血管イベント)と全死因死亡が強化治療群で明らかに優れたことから、早期有効中止となった。
今回の解析には、ベースライン時に脳MRIを受けた670例が含まれ、このうち449例がフォローアップのMRIを完遂した。最終フォローアップ日は2016年7月1日だった。主要アウトカムは脳白質病変容積、副次アウトカムは全脳容積とした。
全脳容積の減少は強化治療で大きく、その解剖学的原理は不明
ベースラインでMRIを受けた670例は、平均年齢67.3[SD 8.2]歳、女性40.4%であった。このうちフォローアップのMRIを完遂した449例(67.0%)の無作為化から最終MRIまでの期間中央値は3.97年であり、治療介入期間中央値は3.40年であった。
線形混合モデルに基づく解析を行ったところ、脳白質病変容積の平均値は、強化治療群では4.57から5.49cm
3(差:0.92cm
3、95%信頼区間[CI]:0.69~1.14)へ、標準治療群では4.40から5.85cm
3(1.45cm
3、1.21~1.70)へとそれぞれ増加し、変化の群間差は-0.54cm
3(-0.87~-0.20)と、強化治療群で有意に増加の程度が小さかった。
また、全脳容積の平均値は、強化治療群では1,134.5から1,104.0cm
3(差:-30.6cm
3、95%CI:-32.3~-28.8)へ、標準治療群では1,134.0から1,107.1cm
3(-26.9cm
3、-28.8~-24.9)へとそれぞれ低下し、変化の群間差は-3.7cm
3(-6.3~-1.1)と、強化治療群で有意に低下の程度が大きかった。
全脳容積のサブグループ解析では、女性は治療群によって全脳容積の変化の差(差:-0.2cm
3、95%CI:-4.5~4.0)に有意差はなかったが、男性は強化治療群が標準治療群に比べ減少の程度が有意に大きかった(-6.0cm
3、-9.3~-2.7)(交互作用のp=0.04)。
著者は、「脳における高血圧の主たる構造的な関連要因は、異常な脳白質病変容積であることを考慮すると、今回の結果は、高血圧に対しより強い降圧治療を行えば、この構造的異常の発現を遅延させる可能性があることを示唆する。一方、強化治療群で脳容積の減少が大きかったことの解剖学的原理と機能的意義は不明である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)