進行性線維化を伴う間質性肺疾患の治療において、ニンテダニブはプラセボと比較して、努力性肺活量(FVC)の年間低下率が小さく、この効果は高分解能CT画像上の線維化のパターンとは独立に認められることが、米国・ミシガン大学のKevin R. Flaherty氏らが行ったINBUILD試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年9月29日号に掲載された。ニンテダニブは、細胞内チロシンキナーゼ阻害薬であり、前臨床データでは肺線維症の進行に関与するプロセスを阻害することが示唆されている。特発性肺線維症(IPF)および全身性強皮症を伴う間質性肺疾患患者では、ニンテダニブ150mgの1日2回投与により、FVCの低下が抑制されたと報告されている。
年間FVC低下率を評価するプラセボ対照無作為化試験
本研究は、日本を含む15ヵ国153施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年2月~2018年4月の期間に患者登録が行われた(Boehringer Ingelheimの助成による)。
対象は、年齢18歳以上の線維化を伴う間質性肺疾患の患者であった。IPFはすでに検討が行われているため、IPF以外の進行性線維化の表現型を登録することとし、高分解能CT画像上で、線維化肺疾患が肺容量の10%超に及ぶと中央判定で確定された患者を登録した。また、患者は、治療にもかかわらず過去24ヵ月間、間質性肺疾患の進行の基準を満たし、FVCが予測値の45%以上、一酸化炭素肺拡散能(ヘモグロビン量で補正)が予測値の30~<80%であることとした。
被験者は、ニンテダニブ(150mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、52週の期間における年間FVC低下率とし、全体および通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)様の線維化パターンの集団で解析を行った。
平均年間FVC低下率を107.0mL抑制
663例が1回以上の薬剤の投与を受けた。ニンテダニブ群が332例、プラセボ群は331例であった。412例(62.1%、両群206例ずつ)がUIP様線維化パターンだった。
全体の平均年齢は65.8±9.8歳、予測FVC値は69.0±15.6%、予測肺拡散能は46.1±13.6%であった。間質性肺疾患の最も多い診断名は、慢性過敏性肺炎(26.1%)と自己免疫性間質性肺疾患(25.6%)だった。ニンテダニブ群は252例(75.9%)、プラセボ群は282例(85.2%)が52週の治療を完了した。
52週時の補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-80.8±15.1mL/年、プラセボ群は-187.8±14.8mL/年であり、両群間の差は107.0mL/年(95%信頼区間[CI]:65.4~148.5)と、低下の程度がニンテダニブ群で有意に抑制されていた(p<0.001)。
また、UIP様線維化パターンの集団における補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-82.9±20.8mL/年と、プラセボ群の-211.1±20.5mL/年に比べ128.2mL/年(95%CI:70.8~185.6)低く、有意差が認められた(p<0.001)。
52週時のKing’s Brief Interstitial Lung Disease(K-BILD)質問票(3つのドメイン[息切れと活動性、心理学的因子、胸部症状]に関する15の質問項目から成る。0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)の総スコアのベースラインからの平均変化は、全体ではニンテダニブ群が0.55±0.60点、プラセボ群は-0.79±0.59点(群間差:1.34、95%CI:-0.31~2.98)であり、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ0.75±0.80点、-0.78±0.79点(1.53、-0.68~3.74)であった。
52週時の間質性肺疾患の増悪または死亡は、全体ではニンテダニブ群が7.8%、プラセボ群は9.7%(群間差:0.80、95%CI:0.48~1.34)、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ8.3%および12.1%(0.67、0.36~1.24)であった。また、52週時の死亡は、全体ではそれぞれ4.8%および5.1%(0.94、0.47~1.86)、UIP様線維化パターンの患者では5.3%および7.8%(0.68、0.32~1.47)だった。
最も頻度の高い有害事象は両群とも下痢であり、ニンテダニブ群が66.9%、プラセボ群は23.9%で発現した。また、ニンテダニブ群で多い有害事象として、悪心(28.9% vs.9.4%)、嘔吐(18.4% vs.5.1%)、食欲減退(14.5% vs.5.1%)、肝機能異常(ALT上昇:13.0% vs.3.6%、AST上昇:11.4% vs.3.6%)が認められた。重篤な有害事象はそれぞれ32.2%、33.2%にみられた。
著者は「これらのニンテダニブの治療効果は、IPF患者を対象としたINPULSIS 1とINPULSIS 2試験の統合データで観察されたもの(平均年間FVC低下率の差 109.9mL/年)と類似していた」としている。
(医学ライター 菅野 守)