著名人の自殺死の報道は、一般人の総自殺者数の増加と関連し、自殺の方法が報道されると、同じ方法による自殺が3割増加することが、オーストリア・ウィーン医科大学のThomas Niederkrotenthaler氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年3月18日号に掲載された。各国の自殺予防戦略には、責任ある自殺報道のガイドラインが含まれるが、一部のジャーナリストや編集者はこれに納得していないとされる。この種のメディア報道は日常的に行われているにもかかわらず、一般人の自殺報道が自殺の発生に及ぼす影響に関する定量的な要約データはないという。
自殺死報道とその後の自殺の関連のメタ解析
研究グループは、自殺(とくに著名人の自殺死)の報道と、その後の一般人の自殺との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。
2019年9月現在、医学データベース(PubMed/Medline、PsychInfo、Scopus、Web of Science、Embase、Google Scholar)に登録された論文を検索した。
次の条件を満たす論文を解析に含めた。(1)メディアによる自殺報道の前および後において、それぞれ1つ以上の時点で比較を行っている、(2)フォローアップ期間は2ヵ月以下、(3)アウトカムは自殺死、(4)メディア報道が事実に即した自殺に関するもの。分割時系列デザイン、単一群事前事後比較および複数群事前事後比較デザインの試験のデータをレビューした。
主要解析は、著名人の自殺死報道が一般人の自殺に及ぼす影響とした。副次解析Aは、著名人が自殺に用いた方法に関する報道が、同じ方法による自殺に与える影響であり、副次解析Bは、一般人の自殺報道が自殺に与える影響であった。
自殺リスク13%増、同じ方法での自殺死30%増
31件の研究(日本が対象の4件を含む)が同定された。これらの研究の対象期間は1947~2016年であり、1974~2019年に発表されていた。バイアスのリスクが中等度と判定された20件の研究が主な解析に含まれた。
著名人の自殺死報道の前に比べ、報道後に一般人の自殺リスクは13%増加した(率比[RR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.08~1.18、p<0.001、14件の研究、フォローアップ期間中央値:28日[範囲:7~60])。
著名人の自殺法が報道された場合、同じ方法による死亡が30%増加した(RR:1.30、95%CI:1.18~1.44、p<0.001、11件の研究、フォローアップ期間中央値:28日[範囲:14~60])。
一般人の自殺報道では、記事の数が1つ増えるごとの自殺のRRは1.002(95%CI:0.997~1.008、p=0.25、5件の研究、フォローアップ期間中央値:1日[範囲:1~8])であり、統計学的に有意ではなかった。その一方で、一部の報道は、自殺との関連を除外できなかった。
異質性は大きく、主要解析(I
2=83.5%、p<0.001)と副次解析A(I
2=72.1%、p<0.001)では有意差が認められ、副次解析B(I
2=0.02%、p=0.40)では有意ではなかった。また、強化ファンネルプロットでは、出版バイアスの可能性が示唆された。
著者は、「われわれの知る限り、これは自殺死報道がその後の自殺に及ぼす影響を最も包括的に評価した研究であり、著名人の自殺死報道後の一定の期間における自殺の増加を示すエビデンスが得られた」とまとめ、「メディア報道の有害な影響への対処法として、一般的に可能な最良の介入は、責任ある報道のためのガイドラインであり、とくに著名人の自殺死報道において、より広く実践され、推進される必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)