転移を有する尿路上皮がんの1次治療において、抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体製剤アテゾリズマブとプラチナ製剤ベースの化学療法の併用療法は、プラチナ製剤ベースの化学療法単独に比べ無増悪生存(PFS)期間を延長し、安全性プロファイルは化学療法単独とほぼ同様であることが、米国・マウント・シナイ・アイカーン医科大学のMatthew D. Galsky氏らの検討「IMvigor130試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年5月16日号に掲載された。プラチナ製剤ベースの化学療法は免疫調節作用を誘導するため、PD-L1およびPD-1の遮断を増強するなど、PD-L1/PD-1阻害薬との有益な併用効果がいくつか示されている。2018年7月、本試験の独立データ監視委員会(IDMC)による計画外の早期解析の結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)は、転移を有する尿路上皮がん(PD-L1発現腫瘍)の1次治療におけるアテゾリズマブの処方を承認しており、今回は、PFSの最終解析と全生存(OS)の中間解析の結果が報告された。
IMvigor130試験には35ヵ国221施設が参加
IMvigor130試験は、日本を含む35ヵ国221施設が参加した無作為化第III相試験であり、2016年7月~2018年7月の期間に患者登録が行われた(F. Hoffmann-La RocheとGenentechの助成による)。
対象は、年齢18歳以上、未治療の局所進行・転移を有する尿路上皮がんで、全身状態(ECOG PS)が≦2の患者であった。
IMvigor130試験で被験者は、アテゾリズマブ+プラチナ製剤ベースの化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン)(A群)、アテゾリズマブ単独(B群)、プラセボ+プラチナ製剤ベースの化学療法(C群)を受ける群に無作為に割り付けられた。
治療は、21日を1サイクルとし、担当医評価で増悪となるか、許容できない毒性が発現するまで継続された。アテゾリズマブは、各サイクルの第1日に1,200mgが静脈内投与された。
有効性の主要エンドポイントは、intention-to-treat集団における担当医評価によるPFS期間とOS期間の2つ(A群とC群の比較)、およびOS期間(B群とC群の比較)とした。
IMvigor130試験のPFS期間中央値:A群8.2ヵ月vs.C群6.3ヵ月
IMvigor130試験には1,213例が登録され、A群に451例(37%、年齢中央値69歳[IQR:62~75]、女性25%)、B群に362例(30%、67歳[62~74]、23%)、C群には400例(33%、67歳[61~73]、26%)が割り付けられた。原発巣は、膀胱がそれぞれ69%、73%、73%を占めた。追跡期間中央値は11.8ヵ月(IQR:6.1~17.2)だった。
シスプラチン不適格例(Galsky基準)は、A群が263例(58%)、B群が192例(53%)、C群は222例(56%)であった。担当医の選択で、カルボプラチンの投与を受けたのは、A群が314例(70%)、C群は264例(66%)であった。
PFSの最終解析とOSの中間解析が行われた2019年5月31日の時点で、PFS期間中央値はA群が8.2ヵ月と、C群の6.3ヵ月に比べ有意に延長した(層別化ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.70~0.96、片側検定のp=0.007)。このPFS期間に関する治療効果は、すべてのサブグループで一貫してA群で良好であった。
また、OS期間中央値は、A群が16.0ヵ月、C群は13.4ヵ月であった(層別化HR:0.83、95%CI:0.69~1.00、片側検定のp=0.027)。
B群とC群の比較では、OS期間中央値はB群が15.7ヵ月、C群は13.1ヵ月であった(層別化HR:1.02、95%CI:0.83~1.24)。PD-L1の発現状況別のOS期間のサブグループ解析では、IC2/3(PD-L1発現細胞の割合≧5%)およびIC0(同<1%)/IC1(同≧1~<5%)のいずれにおいても、B群とC群の間に有意な差はなかった。
客観的奏効率は、A群が47%(完全奏効13%、部分奏効35%)、B群が23%(6%、17%)、C群は44%(7%、37%)であった。奏効例の奏効までの期間中央値は、それぞれ8.5ヵ月、評価不能、7.6ヵ月だった。
治療関連のGrade3/4の有害事象は、A群が81%、B群が15%、C群は81%で発現した。治療関連の重篤な有害事象は、それぞれ32%、12%、26%でみられた。Grade3/4のとくに注目すべき有害事象の頻度は、8%、8%、4%であった。
治療中止の原因となった有害事象は、A群が34%、B群が6%、C群は34%で認められた。このうち、アテゾリズマブまたはプラセボの中止をもたらした有害事象の頻度は、それぞれ11%、6%、7%であった。
著者は、「これらの結果は、転移を有する尿路上皮がんの1次治療の潜在的な選択肢として、アテゾリズマブ+化学療法を支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)