米国では、医療機関支援の資金源として、フィランソロピー(主に寄付による活動支援)の重要性が増しているが、倫理的ガイドラインの策定に資する実証的なエビデンスはほとんどないという。そこで、米国・ミシガン大学のReshma Jagsi氏らは、病院や医師に感謝の思いを持つ患者に慈善的な寄付を促す方法について、一般の人々の受け止め方を評価するための調査を行った。その結果、多くの人々が、寄付をする可能性のある患者を特定したり、寄付を促したり、寄付者に感謝の念を伝えるための法的に許容されているアプローチを支持しないことが明らかとなった。JAMA誌2020年7月21日号掲載の報告。
ウェブベースの質問票を用いた記述的解析
研究グループは、米国人を代表する、確率に基づくサンプル(Ipsos KnowledgePanel)を用いて、一般集団を代表する主要コホートと、3つの補足的コホート(高額所得者、がん患者、心疾患患者)から意見を募った(米国・Greenwall財団の助成による)。意見の収集には、ウェブベースの質問票を使用した。
記述的解析(人口統計学的に米国人を代表するサンプルとなるように重み付け)により、次の3つの問題に関して、回答者の考え方を評価した。(1)病院が、寄付を行う可能性のある患者を特定し、寄付を要請し、謝意を伝えるために使用する戦略の受容性、(2)医師が患者と寄付について話し合うことの影響に関する理解、(3)寄付金の使用と管理に関する見解。
一般集団513人(女性51.6%、非ヒスパニック系白人63.5%)、年収25万ドル以上の253人(46.0%、72.2%)、がんの診断を受けた260人(51.4%、82.2%)、心疾患の既往歴を有する256人(40.6%、77.2%)が調査を完了した。
83.2%が、「寄付の話題は患者-医師関係を損なう」
「患者が参加する可能性のある公的会合で、医師が寄付を募る」に同意を表明したのは、一般集団が55.5%、高額所得者が65.5%、がん患者が57.4%、心疾患患者は58.0%であり、「病院の待合室に、資金調達の担当職員が、寄付の方法に関する情報を掲示する」への同意は、それぞれ76.2%、77.8%、77.2%、73.1%だった。
一般集団では、47.0%が「医師が、患者に許可を得た後、病院の資金調達の担当職員に患者の名前を伝える」ことを、明確に許容する、または高い確実性で許容すると回答し、8.5%は「許可を得なくても紹介してよい」を支持していた。これらへの高額所得者の支持は、それぞれ58.6%および10.9%、がん患者は53.3%および6.3%、心疾患患者は41.0%および6.0%だった。
一般集団の79.5%は、「患者が寄付を話題にした場合には、医師が患者に寄付について話してもよい」とし、14.2%は「患者が話題にしなくても、寄付について話してよい」と回答した。これらへの高額所得者の支持は、それぞれ87.6%および19.5%、がん患者は83.6%および14.5%、心疾患患者は87.6%および11.1%だった。
また、9.9%が「多額の寄付が可能な患者を特定するために、病院の資金調達担当職員が、公的に利用できるデータを用いて資産の審査を行うことを許容する」と答えた。高額所得者の19.9%、がん患者の6.5%、心疾患患者の9.3%が、これを許容した。
一般集団の83.2%は、「医師が患者に寄付の話をすることは、患者-医師の関係を損なう可能性がある」との見解に同意した。また、44.5%が「すべての医師は、金銭の寄付について患者と話し合う方法に関する研修を受けるべき」に同意し、53.3%は「研修は資金調達に関心のある医師だけでよい」とした。
ある患者が100万ドルを寄付したと仮定すると、一般集団の50.1%は、「病院がその患者に、より快適な病室を提供することで謝意を伝えるのを許容する」と回答し、26.0%は謝意の表明として「優先的な診察の予約の提供」を、19.8%は「医師の携帯電話番号の提供」を許容すると答えた。
また、ある患者が100万ドルを寄付した場合に、高額所得者の37.5%、がん患者の23.6%、心疾患患者の23.3%が、「病院が、優先的な診察の予約の提供によって謝意を表す」ことを許容するとした。
著者は、「これらの知見は、現在の資金調達の実践が、利害関係者(とくに、一部の一般集団や患者)が許容できると考えていることと、どこで乖離しているかを明らかにすることで、資金調達の実践や施策の策定に有益な情報をもたらす可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)