院外心停止(OHCA)患者の心停止状態での搬送は、現場での蘇生法継続に比べ退院時の生存割合が低く、神経学的アウトカムも不良であることが、カナダ・St. Paul's HospitalのBrian Grunau氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年9月15日号に掲載された。救急医療システム(EMS)におけるOHCA患者の蘇生処置中の病院搬送に関しては、さまざまな見解が存在する。蘇生法を施行中の心停止状態での搬送が、現場での継続的な蘇生法の実施と比較して有益性が高いか否かは明らかにされていないという。
北米10施設のレジストリのデータを解析
研究グループは、北米の10施設が参加した地域住民ベースの前向きレジストリのデータを用いて、心停止状態での搬送と現場での蘇生法継続による転帰の改善効果を比較した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。
Resuscitation Outcomes Consortium(ROC)Cardiac Epidemiologic Registryから、EMSによる治療を受けた非外傷性の成人OHCA患者のデータを前向きに、連続的に収集した。登録期間は2011年4月~2015年6月で、フォローアップは退院または死亡まで実施された。
心停止状態で搬送された患者(曝露群)と、同時期に難治性の心停止(心停止状態での搬送のリスクがある)を発症した患者(非曝露群)を、時間依存性の傾向スコアを用いてマッチさせ、心停止状態での搬送(心拍再開[ROSC]前に開始された搬送と定義)と、現場での蘇生法継続を比較した。
主要評価項目は退院時の生存とし、副次評価項目は退院時の良好な神経学的アウトカム(修正Rankin尺度<3点)であった。
傾向マッチの退院時生存:4.0% vs.8.5%、良好な神経学的アウトカム:2.9% vs.7.1%
4万3,969例が解析に含まれた。年齢中央値は67歳(IQR:55~80)、37%が女性であった。
86%は私的な場所で心停止を発症し、49%は現場にバイスタンダーまたはEMSによって目撃され、22%はショック適応で、97%は院外で2次救命処置を受けた。1万1,625例(26%)が心停止状態で搬送され、3万2,344例(74%)はROSC達成または蘇生法が終了するまで現場で処置を受けた。
全体の退院時生存割合は、心停止搬送群が3.8%、現場蘇生法群は12.6%であった(リスク差:-8.8%、95%信頼区間[CI]:-8.3~-9.3)。傾向マッチコホート(2万7,705例)の退院時生存割合は、心停止搬送群(9,406例)が4.0%、現場蘇生法群(1万8,299例)は8.5%であった(リスク差:-4.6%、95%CI:-5.1~-4.0)。
良好な神経学的アウトカムの達成割合は、全体(心停止搬送群2.6% vs.現場蘇生法群10.2%、リスク差:-7.6%、95%CI:-8.2~-7.0)および傾向マッチコホート(2.9% vs.7.1%、-4.2%、-4.9~-3.5)のいずれにおいても、心停止搬送群で低かった。
傾向マッチコホートのサブグループ解析では、ショック適応(リスク比:0.55、95%CI:0.45~0.68)、ショック非適応(0.63、0.53~0.74)、EMS目撃(0.58、0.50~0.66)、EMS非目撃(0.32、0.25~0.41)の心停止患者のすべてで、心停止搬送群は現場蘇生法群よりも退院時生存割合が低かった。
著者は、「これらの知見は、院外心停止患者に蘇生処置を施行しながらの病院への搬送を、ルーチンに行うことを支持しない。観察研究デザインの潜在的な交絡の存在により、これらの結果は限定的なものとなる」としている。
(医学ライター 菅野 守)