糖尿病スクリーニングが広く普及する前に開発された心血管リスク予測式は、スクリーニングで検出された多くの患者の心血管リスクを過大評価することを、ニュージーランド・オークランド大学のRomana Pylypchuk氏らが明らかにした。スクリーニングで発見された最近の糖尿病患者の多くは、腎機能が正常で、血糖降下薬を投与されておらず、心血管リスクは低いことも示された。スクリーニング普及前は、ほとんどの糖尿病患者は糖尿病と診断された時に症候性であり、心血管リスクが高く心血管イベント予防薬を処方すべきと考えられていたが、ニュージーランドで世界初となる全国的な糖尿病スクリーニングが導入されて以降、その受検率は2012年の50%から2016年には90%に増加し、検出される糖尿病患者の多くは無症状で発症早期例が占めるようになったという。著者は、「肥満の増加、スクリーニング検査の簡素化、心血管イベントを予防する新世代の血糖降下薬の導入などにより、糖尿病スクリーニングが増加することは間違いないが、今回の結果は、ほとんどの心血管リスク評価式は現代の糖尿病患者集団において検証し更新する必要があることを強く示唆している」と述べている。Lancet誌オンライン版2021年6月2日号掲載の報告。
プライマリケア40万人のコホートで新たな心血管リスクの予測式を作成・検証
研究グループは2004年10月27日~2016年12月30日に、プライマリケアにおいて意思決定支援ソフトウエアのPREDICTを用いて、心血管リスクの評価を受けた約40万人の参加者から、2型糖尿病で、心血管疾患、心不全または腎機能障害を有しない30~74歳のニュージーランド人を特定し、PREDICT-1°糖尿病サブコホートとした。
Cox回帰モデルにより、事前に規定した18の予測因子(糖尿病関連および腎機能測定値など)を用い、男女別の心血管疾患5年リスク予測式を開発作成し、その性能を、2000~06年に開発されたNew Zealand Diabetes Cohort Study(NZDCS)の心血管リスク予測式と比較した。
糖尿病スクリーニング普及後の糖尿病患者の心血管リスクは低い
PREDICT-1°糖尿病サブコホートは4万6,652例で、このうち4,114例で追跡期間中(中央値:5.2年、IQR:3.3~7.4)に初発心血管イベントを認めた。
ベースラインで経口血糖降下薬またはインスリンを使用していなかったのは、1万4,829例(31.8%)であった。新しい推定式による5年心血管リスク中央値は、女性で4.0%(IQR:2.3~6.8)、男性で7.1%(4.5~11.2)であった。一方、従来のNZDCS予測式での心血管リスクは、女性でリスク中央値14.2%(IQR:9.7~20.0)と3倍、男性で同17.1%(4.5~20.0)と2倍、それぞれ過大評価された。
PREDICT-1°糖尿病サブコホート予測式のモデルおよび識別能は、NZDCS式より有意に良好であった。たとえば女性において、R
2値は32%(95%信頼区間[CI]:29~34)vs.24%(21~26)、Harrell's C値は0.73(95%CI:0.72~0.74)vs.0.69(0.67~0.70)、Royston's D値は1.410(95%CI:1.330~1.490)vs.1.147(1.107~1.187)であった。
これらの結果を踏まえて著者は、「ますます多様化する患者集団において、糖尿病関連および腎機能予測因子を用いた現代の糖尿病集団から作成した心血管リスクの予測式で、低リスク患者と高リスク患者を区別することが必要であり、適切な非薬物療法を知らしめ、高価な新薬の費用対効果を高めることが求められるだろう」と述べている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)