米国では、2018~20年の平均余命(life expectancy)が他の高所得国よりもはるかに大きく短縮し、とくにヒスパニック系および非ヒスパニック系黒人集団で顕著であった。米国・バージニア・コモンウェルス大学のSteven H. Woolf氏らが、分析結果を報告した。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより世界中の人々が命を落としたが、米国では他の高所得国に比べ死亡者数が多かったことから、2020年の死亡者数が米国の平均余命や他国との差にどのような影響を与えたかを分析したもの。著者は、「長期にわたり拡大している米国の健康上の不利益、2020年の高い死亡率、持続的な人種・民族的マイノリティに対する不公平な影響は、長年の政策選択と組織的な人種差別の産物であると考えられる」と述べている。BMJ誌2021年6月23日号掲載の報告。
米国と他の高所得国16ヵ国について分析
研究グループは、米国および他の高所得国16ヵ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、英国)の2010~18年および2020年の平均余命を、米国は国立健康統計センター(NCHS)、その他の高所得国は死亡データベース(Human Mortality Database)のデータを用いて分析した。オーストラリア、カナダ、ドイツ、イタリア、日本は、死亡データが不完全であったため分析には含まなかったという。
評価項目は、男女別の出生時の平均余命ならびに25歳時と65歳時の平均余命で、米国のみ人種・民族別の平均余命も分析した。なお、対象国の多くで生命表データが入手できなかったため、2019年は分析から除外した。また、2020年の平均余命は、2020年の年齢別死亡率の推定値からシミュレーションし、確率的誤差を10%として算出した。
米国は他高所得国の8.5倍となる1.87年短縮、人種・民族的な差も
米国と他高所得国の平均余命の差は、2010年の1.88年(米国の平均余命:78.66歳vs.他高所得国の同平均値:80.54歳)から、2018年には3.05年(78.74歳vs.81.78歳)に拡大していた。2020年では、米国の平均余命は76.87歳で、2018年から1.87年短縮していた。同値は、他高所得国の平均短縮幅(0.22年)の8.5倍で、両者の差は4.69年とさらに拡大した。
2018~20年の米国の平均余命の低下は、人種・民族的マイノリティにより差がみられ、ヒスパニック系では3.88年、非ヒスパニック系黒人では3.25年であったのに対して、非ヒスパニック系白人では1.36年であった。ヒスパニック系と非ヒスパニック系黒人の平均余命の短縮は、他高所得国のそれぞれ18倍および15倍に上った。
米国では2010年以降、黒人と白人の平均余命の差が縮まってきていたが、2018年から2020年にかけてその縮小は消失し、黒人男性の平均余命は1998年以来の最低水準となる67.73歳で、長年続いていたヒスパニック系の優位性もほぼなくなった。
(ケアネット)