細胞内のミトコンドリア防御作用を有するシクロスポリンが、心筋梗塞の再灌流時に起こる致死的心筋障害を減らすことは、実験的に示されている。フランス・Hopital Arnaud de VilleneuveのChristophe Piot氏らは小規模ながら、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)前にシクロスポリンを投与することで、梗塞範囲を抑えられるかどうかを検証。NEJM誌2008年7月31日号に結果が掲載された。
58例を対象に逸脱酵素量測定とMRI画像で比較
ST上昇型急性心筋梗塞を発症した患者58例を、PCI直前に体重1kg当たり2.5mgのシクロスポリンを静脈内投与する群と、同量の生理食塩水を投与する対照群に無作為に割り付けた。梗塞範囲は発症後5日目に、全例についてクレアチンキナーゼとトロポニンIの血中放出量を測定し、サブグループ27例はMRI画像で評価した。
クレアチンキナーゼ放出量は有意に減少
シクロスポリン群と対照群は、虚血時間、危険領域の範囲とPCI前の駆出率では類似していた。クレアチンキナーゼ放出量は、対照群と比べてシクロスポリン群では有意に減少したが(P=0.04)、トロポニンIは有意に減少しなかった(P=0.15)。
梗塞発症後5日目に撮ったMRI画像で、梗塞組織を示す高度増強領域の絶対質量は、シクロスポリン群が中央値37g(四分位範囲:21~51)で、対照群の46g(同20~65)と比較して有意に減少した(P=0.04)。シクロスポリン投与の副作用はなかった。
Piot氏は「この小規模試験では、再灌流時のシクロスポリン投与によって、プラセボより梗塞範囲が縮小したことを示す評価項目もあった」と結論したが、「これらのデータは予備的なものであり、より大規模な臨床試験で確認する必要がある」としている。
(武藤まき:医療ライター)