米国において、バイスタンダー(現場に居合わせた人)によって自宅や公共の場で心肺蘇生(CPR)を受けた院外心停止者は、心停止が起きた地域の人種/民族構成や所得レベルに関係なく、黒人・ヒスパニック系が白人と比べて少なかった。米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のR. Angel Garcia氏らが、院外心停止者の前向き多施設登録「Cardiac Arrest Registry to Enhance Survival:CARES」のデータを用いた解析の結果を報告した。院外心停止では、バイスタンダーCPRの実施率の差が、生存率の差に寄与することが知られており、その実施率が院外心停止者の人種/民族間で差があるかを理解することは、対策を検討するうえで非常に重要とされていた。NEJM誌2022年10月27日号掲載の報告。
院外心停止者の前向き多施設登録を用い、バイスタンダーCPRの実施率を解析
CARESは、米国疾病予防管理センター(CDC)とエモリー大学によって設立された、院外心停止者の前向き多施設登録で、現在、約1億6,700万人(米国人口の51%に相当)の住民が含まれている。
研究グループは、CARESにおいて2013年1月1日~2019年12月31日に市中で目撃された成人の非外傷性院外心停止11万54件を特定し、階層的ロジスティック回帰モデルを用いて、自宅や公共の場におけるバイスタンダーCPRの実施率を黒人・ヒスパニック系と白人で比較分析した。全体での実施率と、居住地域の人種/民族構成および所得別の実施率も解析した。
居住地域は、白人が多い地域(住民の80%超)、黒人・ヒスパニック系が多い地域(住民の50%超)または混合地域、ならびに高所得(年間世帯所得中央値が8万ドル超)、中所得(4万~8万ドル)、低所得(4万ドル未満)に分類した。
黒人・ヒスパニック系は白人より自宅で26%、公共の場で37%低い
11万54件中3万5,469件(32.2%)が黒人・ヒスパニック系であった。
自宅でのバイスタンダーCPR実施率は、黒人・ヒスパニック系(38.5%、1万627/2万7,573件)が白人(47.4%、2万6,899/5万6,723件)よりも低く(補正後オッズ比[OR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.72~0.76)、公共の場でも同様であった(45.6% vs.60.0%、補正後OR:0.63、95%CI:0.60~0.66)。
黒人・ヒスパニック系へのバイスタンダーCPR実施率は、白人が多い地域の自宅(補正後OR:0.82、95%CI:0.74~0.90)および公共の場(0.68、0.60~0.75)のいずれにおいても白人と比較して低値であるのみならず、黒人・ヒスパニック系が多い地域(自宅の補正後OR:0.79[95%CI:0.75~0.83]、公共の場の補正後OR:0.63[95%CI:0.59~0.68])や、混合地域(0.78[0.74~0.81]、0.73[0.68~0.77])でも同様であった。
また、所得レベル別でもすべてのレベル層で、自宅ならびに公共の場における黒人・ヒスパニック系へのバイスタンダーCPR実施率が白人より低かった。
なお、著者は研究の限界として、バイスタンダーの人種についての情報がなかったこと、バイスタンダーがCPRを実施しなかった理由についての情報が利用できなかったことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)