インドネシアで実施された高病原性鳥インフルエンザA (H5N1型インフルエンザ)感染死の実態調査により、感染例を同定するにはより優れた診断法の開発と患者管理法の改善が必要であり、それによってオセルタミビル(販売名:タミフル)による早期治療が可能となり死亡率の低下につながることが示された。H5N1型インフルエンザ感染例は致死率がきわめて高く、そのほとんどがインドネシアで発見されている。同国保健省疾病管理・環境衛生総局のI Nyoman Kandun氏が、Lancet誌2008年8月30日号(オンライン版2008年8月14日号)で報告した。
127例を対象に死亡関連因子を調査
研究グループは、インドネシアにおけるH5N1型インフルエンザによる死亡関連因子について調査した。2005年6月~2008年2月の間に、127例のH5N1感染例が同定された。
個々の症例の調査・管理を行うチームが派遣され、症例調査報告や患者、家族、鍵となる人物へのインタビューにより疫学および臨床データが収集された。
死亡率81%、早期治療により死亡率が低下
H5N1型インフルエンザ感染例127例のうち103例(81%)が死亡した。入院までに要した時間の中央値は6日(1~16日)であった。データが得られた入院患者122例ののうち、発熱が121例(99%)、咳嗽が107例(88%)、呼吸困難が103例(84%)に見られたが、発症から2日間はほとんどの患者が非特異的な症状を呈し、発熱と咳嗽の双方が見られたのは31例、発熱と呼吸困難を示したのは9例にすぎなかった。
発症からタミフル治療までに要した時間の中央値は7日(0~21日)であった。発症後2日以内に治療が開始された1例は生存しており、2~4日に治療を受けた11例のうちでは4例(36.4%)が、5~6日に治療を受けた16例では6例(37.5%)が、7日以降の44例では10例(18.5%)が生存していた(p=0.03)。2日以内に治療を開始した場合は、5~6日以降に開始した症例に比べ死亡率が有意に低かった(p<0.0001)。
これらの結果をふまえ、著者は「早期にタミフル治療を開始すれば死亡率が低減する可能性があり、H5N1型インフルエンザ感染例を同定するにはより優れた診断法を開発し、患者管理法を改善する必要がある」としている。
(菅野守:医学ライター)