デンマーク住民約357万人の追跡調査により、心房細動(AF)の生涯リスクは20年間で増大しており、AF発症後の残りの生涯において約5人に2人が心不全を、5人に1人が脳卒中を発症し、そのリスクは時間が経過しても変化がない、もしくはわずかな改善しかみられなかったことが示された。デンマーク・オールボー大学のNicklas Vinter氏らが、同国の患者登録データを用いた住民ベースのコホート研究の結果を報告した。AFを発症した場合、患者ケアは脳卒中のリスクに焦点が当てられるが、心不全や心筋梗塞も含めたAFに付随する長期的な影響について、さらなる検討が求められていた。結果を踏まえて著者は、「AF患者では、脳卒中リスクと心不全予防への戦略が必要である」とまとめている。BMJ誌2024年4月17日号掲載の報告。
45~94歳のAF生涯リスク、合併症の生涯リスクを調査
研究グループは、デンマーク患者登録(Danish National Patient Registry)の2000年1月1日~2022年12月31日のデータを用いてコホート研究を行った。
AFを有していない45~94歳のデンマーク人357万4,903人(女性51.7%、男性48.3%)を対象とし、AFの発症、死亡、移住、95歳、研究期間終了のいずれかまで追跡調査を行った。
また、合併症を有しておらず研究期間中に新たにAFと診断された36万2,721人(女性46.4%、男性53.6%)については、診断後、心不全、脳卒中または心筋梗塞の発症、死亡、移住、95歳、研究期間終了のいずれかまで追跡した。
主要アウトカムは、2000~10年と2011~22年の2つの期間におけるAFの生涯リスクならびにAF診断後の合併症の生涯リスクの比較であった。AFおよびAF後の合併症の累積発生率は、Aalen-Johansen推定法を用いて算出した。
生涯リスク、AFは24.2%から30.9%に増加、合併症では心不全が42%で最多
AFの生涯リスク(指標年齢45歳)は、2000~10年の24.2%(95%信頼区間[CI]:24.1~24.3)から2011~22年には30.9%(30.8~31.0)と、6.7%(6.5~6.8)増加した。登録時の共変量で補正しても結果は同様であり、AFの生涯リスクは経時的にすべてのサブグループで増加が認められた。
AF診断後の最も頻度の高い合併症は心不全で、指標年齢45歳での生涯リスクは2000~10年42.9%、2011~22年42.1%と変化はみられなかった(群間差:-0.8%、95%CI:-3.8~2.2)。いずれの期間においても、心不全発症によって失われる生涯期間は平均14.4年であった。
AF診断後の脳卒中では、指標年齢45歳での生涯リスクは同期間に22.4%から19.9%(群間差:-2.5%[95%CI:-4.2~-0.7])、同じく心筋梗塞では13.7%から9.8%(-3.9%[-5.3~-2.4])に、それぞれわずかだが減少した。
生涯リスクの減少について、男女間の差を示すエビデンスは認められなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)