新規抗凝固薬であるエドキサバン(商品名:リクシアナ)が、2011年4月、「膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」を適応として承認された。今年7月にも薬価収載・発売が予定されている。
静脈血栓塞栓症とは
今回、エドキサバンで承認された膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折手術施行患者は、いずれも静脈血栓塞栓症を発症しやすいとされている。静脈血栓塞栓症とは、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の総称で、血流停滞、血管内皮障害、血液凝固能亢進を3大要因とし、上記患者においてその予防は重要となっている。
また、対象となる患者数は、膝関節および股関節の全置換術施行患者があわせて10万人、股関節骨折手術患者は10万人存在するとみられている。
現在の静脈血栓塞栓症予防法と課題
下肢整形手術後における静脈血栓塞栓症予防法は、理学療法と薬物療法の2種類に大別される。理学療法における予防法としては、弾性ストッキングの着用や間欠的空気圧迫法などで、わが国ではすでに多くの症例で実施されている。薬物療法においては、未分画ヘパリン、ワルファリン、Xa阻害薬などが使用されているが、頻繁な血中モニタリング、ビタミンKの摂取制限、注射薬投与の煩雑さなどのアンメットニーズが存在している。
エドキサバンはわが国初の経口Xa阻害薬
こうした状況を背景に、わが国初の経口Xa阻害薬となるエドキサバンが承認された。これまでにもXa阻害薬は存在していたが、いずれも注射薬であり、また従来のXa阻害薬がアンチトロンビンへの作用を介した間接的Xa阻害薬であるのに対し、エドキサバンはXaを直接阻害し、さらに可逆的に作用する。
エドキサバンの第Ⅲ相試験結果
エドキサバンにはすでに多くのエビデンスが存在している。エドキサバンでは、人工膝関節全置換術、人工股関節全置換術施行患者を対象に、静脈血栓塞栓症および大出血または臨床的に重要な出血の発現率を検討した第Ⅲ相二重盲検試験が行われている。
人工膝関節全置換術施行患者を対象とした試験において、静脈血栓塞栓症の発現率は、エドキサバン群(30mg、1日1回、11~14日経口投与)で7.4%(95%信頼区間:4.9-10.9)、エノキサパリン群(2,000IU、1日2回、11~14日皮下注射)で13.9%(同:10.4-18.3)となり、有意に静脈血栓(塞栓)症の発現を抑制した。また、大出血または臨床的に重要な出血の発現率は、エドキサバン群で6.2%(同:4.1-9.2)、エノキサパリン群で3.7%(同:2.2-6.3)となり、群間の有意な差は認められなかった。
また、人工股関節全置換術施行患者を対象とした試験においては、静脈血栓塞栓症の発現率は、エドキサバン群(30mg、1日1回、11~14日経口投与)で、2.4%(同:1.1-5.0)、エノキサパリン群(2,000IU、1日2回、11~14日皮下注射)で6.9%(同:4.3-10.7)となり、有意に静脈血栓(塞栓)症の発現を抑制した。大出血または臨床的に重要な出血の発現率は、エドキサバン群で2.6%(同:1.3-5.1)、エノキサパリン群で3.7%(同:2.1-6.4)となり、群間の有意な差は認められなかった。
さらに、股関節骨折手術施行患者を対象に、エドキサバンまたはエノキサパリンを投与したオープンラベルでの臨床試験も行われており、この試験において、静脈血栓塞栓症の発現率は、エドキサバン群(30mg、1日1回、11~14日経口投与)で6.5%(同:2.2-17.5)、エノキサパリン群(2,000IU、1日2回、11~14日皮下注射)で3.7%(同:0.7-18.3)となった。なお、この股関節骨折手術施行患者を対象とした試験におけるエノキサパリン群は、参考として設定された群であり、統計学的な比較対象群とはならない。
こうしたエドキサバンの特徴やエビデンスを鑑みると、エドキサバンの登場により、医療従事者および患者の精神的・肉体的負担、静脈血栓塞栓症の発現率、頻回な血中モニタリング、食事制限といった、これまでのアンメットニーズの解決が期待される。
リスクとベネフィットのバランスを鑑みた適切な使用を
近年、高い効果と使いやすさを兼ね備えた新しい抗凝固薬が開発され、抗凝固療法は大きな転換期を迎えつつある。しかし、どの抗凝固薬であっても少なからず出血リスクはつきまとい、また、ひとたび大出血を起こすと、場合によっては生命にかかわることもある。
その中で、わが国初の経口Xa阻害薬であるエドキサバンは、患者のリスクとベネフィットのバランスを鑑み、適切に使用すれば、多くの患者の役に立つ特徴を持った薬剤だといえる。
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(ケアネット 鈴木 渉)