せん妄は、高齢入院患者において平均5人に1人が発症する神経精神症候群であり、認知および機能の悪化、患者および介護者の負担増加、死亡率の上昇を含む多くの悪影響と関連している。抗コリン作用を有する薬物療法は、高齢入院患者におけるせん妄症状の臨床的重症度と関連しているといわれるが、この関連性はまだよくわかっていない。イタリア・Istituto di Ricerche Farmacologiche Mario Negri IRCCSのLuca Pasina氏らは、累積抗コリン作用性負荷がせん妄リスクを増加させるという仮説を検証するため、せん妄と抗コリン作用性負荷との関連性を評価した。Drugs & Aging誌オンライン版2018年11月27日号の報告。
2014年6月~2015年1月までにイタリア・モンツァのSan Gerardo Hospitalの急性期高齢者病棟(Acute Geriatric Unit:AGU)に入院した高齢者を対象に、レトロスペクティブ横断研究を実施した。せん妄の診断は、良好な感度や特異性を示す有効なスクリーニングツールである4'A'sテスト(4AT)を用いて入院時に行った。各患者における抗コリン作用性負荷は、高齢患者の中枢神経系への悪影響リスクを予測する、抗コリン薬のランク付けであるAnticholinergic Cognitive Burden(ACB)スケールで測定した。
主な結果は以下のとおり。
・分析対象の477例中、151例(31.7%)がせん妄を有していた。
・ACBスケールでは、377例(79.0%)が1剤以上の抗コリン薬を使用していた。
・強力な抗コリン作用を有するクエチアピンを除いて、最も一般的に用いられる抗コリン薬は、潜在的に抗コリン作用を有するが、ACBスケール(スコア1)においては、臨床的に関連する認知機能への影響は不明であった。
・せん妄を有する患者では、非せん妄患者と比較し、抗コリン作用性負荷が高く、単変量解析で有意であった総ACBスコアとせん妄との間に用量効果関係が認められた。
・定常リスクはスコア0~2の患者で認められたが、スコア3以上の患者では、抗コリン薬未使用患者よりも、せん妄リスクは約3~6倍高かった。
・用量反応関係は、年齢および性別で調整された多変量モデルで維持されたが(オッズ比[OR]:5.88、95%信頼区間[CI]:2.10~16.60、p=0.00007)、認知症およびMini Nutritional Assessmentで調整されたモデルでは、有意な差は認められなかった(OR:2.73、95%CI:0.85~8.77、p=0.12)。
著者らは「抗コリン薬は、抗ムスカリン作用を有する複数の薬物療法の累積効果によって、せん妄の発症に影響を及ぼす可能性がある。しかしこの影響は、認知症および栄養不良で調整後、多変量ロジスティック回帰分析では明らかな差が認められなかった。認知症および栄養不良を含む高齢入院患者において、抗コリン作用性負荷とせん妄との関連を明らかにするためには、より大規模な多施設共同研究が必要とされる」としている。
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