医師の時間外労働の上限について、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会(第16回)」が1月11日開かれ、事務局案として2つの上限水準が示された。この水準は時間外労働規制として2024年4月から適用予定のもので、今後は事務局案を基に議論を進め、今年度中に結論を出す見通しとなっている。
時間外労働、年960時間/1,900時間の働き方を具体的にみると…
一般労働者においては、2019年4月から適用される時間外労働の上限時間は年360時間・月45時間とされており、年6ヵ月に限定した例外措置が設定されている
1)。医師における時間外労働の上限として、検討会では下記(A)~(C)3つの枠組みを設けることを検討している。(C)については水準を別途設けるべきかを含め、今後議論される予定で、今回は(A)(B)について具体的な数値案が示された。なお、(B)は地域医療提供体制確保の観点から、やむを得ず(A)の水準を超えざるを得ないとして特定の医療機関(2024年4月までに検討・決定予定)に適用される形が想定されており、2035年度末を目途に解消を目指すとされている
2)。
(A)原則:年960時間・月100時間(例外あり)※休日労働含む
(B)地域医療確保暫定特例水準:年1,900~2,000時間・月100時間(例外あり)※休日労働含む
(C)一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けの水準:〇〇
同検討会で並行して議論されている「勤務間インターバル9時間、当直明けは18時間確保」を適用のうえ、(A)(B)を満たす働き方として示された具体例は下記のとおり。
(A)
時間外労働年960時間程度≒週20時間の働き方の例
・週1回の当直(宿日直許可なし)を含む週6日勤務
・当直日とその翌日を除く
4日間のうち1日は半日勤務で、それ以外の3日間は1日1時間程度の時間外労働
・当直明け勤務は昼まで
・年間80日程度の休日(おおむね4週6休に相当)
(B)
時間外労働年1,900時間程度≒週40時間の働き方の例
・週1回の当直(宿日直許可なし)を含む週6日勤務
・当直日とその翌日を除く
4日間は早出または残業を含め1日14時間程度の勤務
・当直明け勤務は昼まで
・年間80日程度の休日(おおむね4週6休に相当)
これらの具体例の提示を受け、赤星 昂己氏(東京医科歯科大学医学部附属病院救命救急センター 医師)は「1,900~2,000時間と聞くと長いという印象を受けたが、具体例をみてみると余裕でありうる設定だと感じた。ただし、現状の人数のままでインターバル9時間の実現は難しいと思われ、集約化を進めないと難しいだろう。懸念としては、暫定特例水準が認められた病院が若手に避けられてしまわないか、という点がある。」とコメントした。
現状でも6割は960時間以内、著しく超過しているのは1割
厚労省の時間外労働時間についての調査では、病院勤務医の約6割が現状でも年960時間以内、約3割が年960時間から1,900~2,000時間、そして約1割を占める2万人がそれ以上と報告されている。年1,920時間以上の該当者がいる病院の割合をみると、大学病院の88%、救急機能を有する病院の34%、救命救急機能を有する病院の82%であった。また病床数別にみると、400床以上で68%、200床以上400床未満で21%、200床未満で13%というデータも示されている。
構成員からは、「地域で1次・2次の救急を担っている病床数の少ない病院にも該当者がいるのではないか。そのデータをしっかりみて、今後の議論を進めていくべき。医師数が少ないところは看護師数も少ない。そこでどうタスクシフトするのか、その点についてももっと詳細に考えなくてはいけない(片岡 仁美氏、岡山大学医療人キャリアセンターMUSCAT センター長)」、「水準の適用後、時間の達成状況だけでなく、地域医療の質に対する影響の調査が重要になるのではないか(城守 国斗氏、日本医師会常任理事)」などの意見が上がった。
■参考
1)厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
2)厚生労働省「第16回医師の働き方改革に関する検討会」資料
(ケアネット 遊佐 なつみ)