実臨床におけるうつ病治療は、常に従来のガイドラインに沿っているわけではない。慶應義塾大学の櫻井 準氏らは、精神科専門医を対象に、うつ病の治療オプションに関する調査を行った。Journal of Affective Disorders誌2020年4月1日号の報告。
日本臨床精神神経薬理学会の認定精神科医を対象に、うつ病治療における23の臨床状況について、9段階のリッカート尺度(同意しない「1」~同意する「9」)を用いて、治療オプションの評価を依頼した。114件の回答が得られた。治療オプションを、1次、2次、3次治療に分類した。
主な結果は以下のとおり。
・抗うつ薬の第1選択薬は、主要な症状により以下のように異なっていた。
●不安症状:エスシタロプラム(平均±標準偏差:7.8±1.7)、セルトラリン(7.3±1.7)
●興味の喪失:デュロキセチン(7.6±1.9)、ベンラファキシン(7.2±2.1)
●不眠症状:ミルタザピン(8.2±1.6)
●食欲不振:ミルタザピン(7.9±1.9)
●興奮および重度の焦燥感:ミルタザピン(7.4±2.0)
●自殺念慮:ミルタザピン(7.5±1.9)
・1次治療に奏効しない場合の2次治療は、以下のとおりであった。
●SSRIで奏効しない場合:SNRIへの切り替え(7.7±1.9)、ミルタザピンへの切り替え(7.4±2.0)
●SNRIで奏効しない場合:ミルタザピンへの切り替え(7.1±2.2)
●ミルタザピンで奏効しない場合:SNRIへの切り替え(7.0±2.0)
・アリピプラゾール増強療法は、SSRI(7.1±2.3)またはSNRI(7.0±2.5)に対する部分的なレスポンスがみられた患者に対する1次治療と見なされていた。
著者らは「専門医のコンセンサスのエビデンスレベルは低く、本調査は、日本人の専門医のみが対象であった」としながらも、「臨床現場の専門医による推奨は有用であり、実際の臨床診療におけるガイドラインと情報に基づく意思決定を補助することができる。うつ病に対する薬理学的治療戦略は、患者の状況ごとのニーズと薬物療法プロファイルを考慮し、柔軟に対応すべきである」としている。
(鷹野 敦夫)