コロナ禍において、日本でも「コロナ不安」「コロナ疲れ」という言葉がメディアやSNS上で散見される。現在、米国では国民の約半数がこの状況下でメンタルヘルスに支障をきたし、ワシントンポスト紙の調査によれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行拡大によるストレスレベルは2009年のリーマン・ショック時よりも高くなっているー。2020年6月18日、2020年度第1回メディアセミナーがWeb開催され、堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授/日本抗加齢医学会 理事長)が「Stay Homeのアンチエイジング」と題し、コロナ疲れがDNAレベルにもたらす影響やその対策法を語った(主催:日本抗加齢医学会)。
コロナ疲れの回避策として心のアンチエイジング
「コロナ疲れ」とは、COVID-19というストレッサー(脅威)に対して心理的な闘争・逃走反応が続くことで、次第にネガティブ感情が増幅して生じる状態である。堀江氏はコロナ疲れの原因の1つに在宅勤務(テレワーク)を挙げ、「『3密』(密閉、密集、密接)を回避した新しい生活様式を遂行するうえで推奨されているが、テレワークの増加に伴い、プライベートと仕事の空間が混在し、長時間労働になることでワーク・ライフ・バランスに悪影響を及ぼすことが研究報告されている
1)」と問題点を指摘した。この研究結果によると、ワーク・ライフ・バランスが崩壊することで、燃え尽き症候群になりやすく、仕事や人生への満足感が減ることが明らかになっていることから、コロナ疲れの回避策として「心のアンチエイジングが重要」と同氏は述べた。
一般的なアンチエイジング対策には、加齢に伴い増加する酸化ストレスをいかに抑制させるかが鍵となるが、心のアンチエイジングを保つための有用な方法として、同氏はセルフ・コンパッションを推奨。セルフ・コンパッションとは、「あらゆる人の幸せを願う」「あらゆる人の苦しみがなくなることを願う」「あらゆる人の幸せを喜ぶ」「偏りのない平静で落ち着いた心」という、ダライ・ラマ14世の教えである。これにより、他人のために何かをしようとする前に自分自身を労ろうという考え(自分への優しさ、共通の人間性の認識、マインドフルネス)を意識することで、幸福感や打たれ強さ、つながり感が増幅し、ストレス・うつ・不安になりにくい体質が形成されることが明らかになってきている。セルフ・コンパッションの効用をまとめると、1)幸福感を高める、2)ストレスを減少させる、3)レジリエンス(回復力、弾性)が高い、4)自己改善のモチベーションが高く自分らしい人生を送れる、などがある。近年、セルフ・コンパッションの概念を持つ人はテロメアが長いことも報告されており、抗加齢医学の研究でも重要な役割を果たすとされている。
「コロナ疲れ」だけで済ませてはいけない理由
遺伝子の老化度を示すテロメアの長さはセルフ・コンパッションにより保たれる。その一方、コロナ疲れのような心理的ストレスの影響を大きく受けている人ほどテロメアは短縮し、動脈硬化や心臓病の発症リスクが高くなる。過去に性差を比較した研究
2)では、男性のほうが女性よりも早くテロメアが短くなることも報告されている。これらを踏まえ、テレワークをする男性が、寿命延伸やテロメアの長さを死守するため「コロナ疲れ」を単なる「疲れ」で済ますのは、リスクが大きいのかもしれない。
最後に同氏は「テレワークの増加により中年期以降のうつの増加も懸念される。酸化ストレスが免疫を抑制し、心理的ストレスがそれを助長することから、自宅でもハツラツと過ごすために、まずは自分自身をいたわるセルフ・コンパッションを学んでほしい」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)
1)Nicklin JM, et al. Eur J App Positive Psychol.2019;14:1265-1286.
2)Ghimire S, et al. PloS one. 2019;14:e0221690.