日本初の試み「患者提案型医師主導治験」がスタート

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2020/07/17

 

 患者が要望し、医師が主導するという新たな形態の臨床試験がスタートする。7月9日に行われたWebセミナー「今ある薬を、使えるようにするために―Wanna Be a part of History ?―」では、日本初となるこの「患者提案型医師主導治験」の実現までの道筋や背景が説明された。

 今回の治験「WJOG12819L」は、非小細胞肺がん(NSCLC)に対するオシメルチニブの適応拡大を目指す目的で行われる第II相試験。オシメルチニブの添付文書では「他のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)による治療歴を有し、病勢進行が確認されている患者では、EGFR T790M変異が確認された患者に投与すること」とされている。そのため、既に第1、2世代EGFR-TKIを投与されている患者で全身増悪したケースや投与中に脳転移のみが起きたケースでは、T790M変異陰性の場合にはオシメルチニブを投与することができない。T790M変異陽性の患者は全体のおよそ半数で、開発時の臨床試験におけるオシメルチニブの奏効割合は約70%。一方で、陰性患者に対する奏効割合も約20%あるとされ、該当する患者からは「この条件に納得できない」という声が上がっていた。

 「置き去りにされた、という思いでした」と語るのは、今回の治験の発端となった日本肺がん患者連絡会 理事長の長谷川 一男氏だ。長谷川氏はT790M変異陰性患者を含めた適応拡大には治験をするしかないと考え、講演会で知り合った近畿大学腫瘍内科 教授/西日本がん研究機構(WJOG)理事の中川 和彦氏と連携し、製薬メーカーへの協力依頼と資金集めを2年越しで行い、協力を取り付けることに成功した。

 中川氏は「従来、医薬品の承認や適応拡大を目的とし、厚労省の治験ルールであるGCPに則り、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に届けを出して行う治験は、医師主導か製薬メーカー主導かの2択だった。今回はそこに『患者提案型医師主導治験』という新たな選択肢が加わったわけで、その意義は大きい」と語る。薬剤承認に関わる治験には厳密性が求められ、通常は数億円規模の予算が必要となる。一般の治験においては、治験運営資金は製薬メーカーまたは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などの公的資金で賄うことが多いが、今回の患者提案型医師主導治験では費用の一部に患者会の寄付をあてる予定だ。「米国では患者会が大きな資金力と発言力を持っており、患者提案型治験が多く実施されている。日本でもその一歩が踏み出せた」(中川氏)。

 続いて、本試験のデザインが、近畿大学医学部内科学講座腫瘍内科部門 ゲノム医療センターの武田 真幸氏から発表された。

・対象はEGFR-TKI治療後、脳転移単独増悪となったT790M変異陰性/不明の患者と腫瘍増悪で引き続きプラチナ化学療法を受けたT790M変異陰性の患者。
・主要評価項目は、画像中央判定による腫瘍に対する奏効割合。
・脳転移増悪群17例、全身腫瘍増悪群53例の計70例を目標に2020年8月に登録を開始。3年で登録、1年で解析を目指し、早期に患者が集まれば解析を前倒しする。
・患者募集は、近畿大学病院を中心に全国15施設で行う。

 本治験の通称は「KISEKI試験」。適応拡大に向けた奇跡が起きることと、患者提案型治験の軌跡になりたいとの意味を掛け合わせた、という。

(ケアネット 杉崎 真名)