COVID-19を巡っては、呼吸器系疾患を有する人で重症化しやすいことがこれまでの研究で明らかになっており、COVID-19流行当初、喘息の入院患者数が増加する可能性が危惧されていた。ところが実際は、国内におけるCOVID-19流行期間の喘息入院患者数が例年よりも大きく減少していたことがわかった。東京大学の宮脇 敦士氏らの研究チームが、メディカル・データ・ビジョンの保有する大規模診療データベースを用い、同社の中村 正樹氏、慶應義塾大学のニ宮 英樹氏との共同研究から明らかにした。研究をまとめた論文は、2020年10月13日付(日本時間)でThe Journal of Allergy and Clinical Immunology:In Practice誌オンライン版に掲載された。
本研究では、2017年1月〜2020年5月、喘息による入院患者数の週ごとの推移が継続的に観察できた全国272のDPC病院を対象に調査を実施した。その結果、例年春先(第9週=3月上旬以降)から初夏にかけて、喘息の入院患者数は増加する傾向にあるにもかかわらず、今年は逆に減少する傾向だったことが認められた。年および週によるトレンドを統計学的に調整した分析では、2020年第9週以降の喘息による平均入院患者数は、2017年から2019年の同時期と比べ0.45倍(95%信頼区間:0.37~0.55、p<0.001)だった。この傾向は18歳未満の子ども、成人共に認められた。
本結果の分析として、COVID-19感染を防ぐための個人レベルの衛生対策(外出時のマスク装着など)が、呼吸器のウイルス感染や花粉などのアレルゲンおよび大気汚染物質など喘息増悪の強力な要因への曝露を減らした可能性を挙げている。また、COVID-19の蔓延が喘息発作を増加させる可能性があるという当初の懸念は、禁煙やアドヒアランスの向上、アレルゲンを除去するための掃除頻度の向上など、予防行動を促進したのではないかと指摘している。さらに、地域レベルの予防策(学校閉鎖、大規模な集会の中止、在宅勤務の促進)や、経済的閉鎖に関連した大気汚染の減少も奏功した可能性があるという。
著者らは、本研究について、個人や社会が生活様式を変えることにより喘息入院の大部分を予防できる可能性を示唆しており、喘息の良好なコントロールのために予防行動や生活環境への配慮が重要であることが再認識されたと述べている。
(ケアネット 鄭 優子)