これまで新型コロナワクチンの接種は他のワクチン接種と13日以上の間隔を空けて実施することとされていたが、知見等の蓄積をふまえ、インフルエンザワクチンに関しては同時接種も可能とすることが、7月22日に開催された第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で了承された。同会ではそのほか、オミクロン株対応ワクチンの接種や4回目接種の対象者拡大等についても議論された。
各社のコロナワクチンとインフルワクチン同時接種の有効性・安全性
<同時接種の有効性>
ファイザー社・アストラゼネカ社:2回目接種において、ファイザー社またはアストラゼネカ社ワクチン単独接種と比べ、新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価は有意差がなかった。さらにファイザー社ワクチンとの同時接種においてインフルエンザの一部の株に対するHI抗体価の上昇がみられた。
モデルナ社:追加接種において、インフルエンザワクチン単独またはモデルナ社ワクチン単独接種と比べて、インフルエンザHI抗体価、新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価共に低下はなく、免疫干渉はないと報告された。
武田社:初回接種において、インフルエンザワクチン単独接種と比べて、インフルエンザHI抗体価は同程度に上昇した。また、両ワクチンの同時接種による新型コロナウイルス感染症発症予防効果は87.5%と、武田社ワクチン単独接種の89.8%と同程度であった。
<同時接種の安全性>
ファイザー社・アストラゼネカ社:観察期間を通じた全身副反応報告割合は非同時接種群と比較して、同時接種群でも同程度であり、同時接種での安全性の懸念は認められなかった。
モデルナ社:接種後21日間に報告された有害事象は同時接種群17.0%、モデルナ群14.4%、インフルエンザ群10.9%であり、同時接種での安全性の懸念は認められなかった。
武田社:接種後21日以内に報告された有害事象は同時接種群18.4%、ノババックス群17.6%、インフルエンザ群:14.5%で同時接種により安全性の懸念が増すことはなかった。
米国ではインフルエンザワクチンを含めて、他のワクチンと新型コロナワクチンは同時接種可能とされており、2021年9月~2022年5月のデータにおけるmRNAワクチンの追加接種とインフルエンザワクチンの同時接種後7日間の全身反応の調整オッズ比は、mRNAワクチン追加接種の単独接種と比較し、ファイザー社ワクチンとの同時接種で1.08、モデルナ社ワクチンとの同時接種で1.11であったと報告されている。英国では2022年5月26日にインフルワクチンとコロナワクチンの同時接種は安全であるという基本方針が示されており、同会ではこれらの知見と諸外国の対応等考慮して、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンについては、間隔の規定を廃止し同時接種を認める一方、インフルエンザ以外のワクチンとの同時接種については、13日以上の間隔を開けることとし、引き続きエビデンスを収集しながら検討することとされた。
なお、委員からは同時接種を積極的に推奨するのか? という質問が上がり、厚労省では、積極的に推奨するということではなく、1つの選択肢として同時接種も可能となるという位置づけと回答した。
「オミクロン株対応ワクチン」今秋以降に導入の方向で検討
ファイザー社およびモデルナ社では、「オミクロン株対応ワクチン」の開発を進めており、ともにオミクロン株(BA.1)の成分を含んだワクチンの臨床試験結果を発表し、BA.1に対する中和抗体価が従来ワクチンと比較して優越性を示したことが報告されている。FDAでは製造販売業者に対して、オミクロン株(BA.4/5)の成分を含む2価の追加接種用ワクチンを開発するよう、COVID-19ワクチンを改良することを検討するよう勧告しており、これにより、改良されたワクチンが2022年秋の初めから中頃に利用できるようになる可能性がある。
本邦でも「オミクロン株対応ワクチン」を予防接種に導入していく方向が了承され、「オミクロン株対応ワクチン」の構成(オミクロン株の成分のみを含んだ単価ワクチンとするか従来型ワクチンを含んだ2価ワクチンとするか、オミクロン株の構成亜系統[BA.1またはBA.4/5])について専門的に議論する場を設けることで一致した。
なお、厚労省では同日7月22日付けで「オミクロン株に対応した新型コロナワクチンの接種体制確保について」と題した事務連絡を発出し、「オミクロン株対応ワクチン接種は、少なくとも新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高い高齢者等を対象とすることが考えられるが、今後得られるデータや諸外国の動向等を踏まえて、高齢者等以外の者も対象とする可能性があるため、現時点では、初回接種を完了した全ての住民を対象に実施することも想定して準備を進める」ことを要請している。
4回目接種対象者、医療従事者に拡大
3回目接種から4ヵ月以上経過した60歳以上において、オミクロン株流行期におけるファイザー社ワクチン4回目接種による感染予防効果は、4回目接種後22~28日後には約50%であったが、50~56日後には約9%である一方、重症化予防効果は4回目接種後36~42日後においても77%であったと報告されている。また18歳以上の医療従事者を対象とした前向き臨床研究では、オミクロン株流行下においてファイザー社またはモデルナ社ワクチン4回目接種の感染予防効果は、3回目接種と比較してそれぞれ30.0%および10.8%であり、発症予防効果についてはそれぞれ43.1%および31.4%であったとの未査読の研究報告がある。
これらいくつかの論文データからは、4回目接種の感染予防効果は限定的とのエビデンスに特段変わりはないものの、新規感染者が急速な増加傾向にあることから、重症化リスクの高い者が多数集まる医療機関・高齢者施設等において従事者を通じた集団感染が生じることを懸念し、60歳未満の医療機関・高齢者施設等の従事者に対する4回目接種を、予防接種法に基づく予防接種として位置付けることを了承した。
同時接種可能とすることおよび4回目接種対象者の拡大については、同日公開された「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(8.2版)」にも反映されている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)