ホルモン受容体陽性(HR+)かつHER2低発現の早期乳がん患者の術前補助療法として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)±内分泌療法の有効性と安全性を検討した医師主導第II相TRIO-US B-12 TALENT試験の結果、良好なpCR率とORRが得られたことを、米国・Massachussetts General Hospital、Harvard Medical SchoolのAditya Bardia氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS 2022)で発表した。
・対象:HR+かつHER2低発現(IHC1+またはIHC2+でFISH-)で、手術可能なStage II~IIIの男性または閉経前/閉経後女性の乳がん患者 58例
・治療方法:
[T-DXd単独群]T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 29例
[内分泌療法併用群]T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与+アナストロゾール錠1mg、1日1回投与(男性および閉経前女性にはGnRHアナログも投与) 29例
・サイクル数:当初は6サイクルであったが、2022年2月に新規登録者と手術実施患者では8サイクルに修正された。
・評価項目:
[主要評価項目]病理学的完全奏効(pCR)率(ypT0/is ypN0)
[副次評価項目]奏効率(ORR)、HER2発現の変化を含む腫瘍バイオマーカー、安全性
・層別化因子:HER2発現、閉経状態
主な結果は以下のとおり。
・2020年9月~2022年10月の間に、T-DXd単独群では29例中14例が6サイクルの治療を、7例が8サイクルの治療を完了して手術を受け、4例が治療中であった。内分泌療法併用群では29例中13例が6サイクルの治療を、8例が8サイクルの治療を完了して手術を受け、5例が治療中であった。
・ベースライン時における年齢中央値はT-DXD単独群が59歳、内分泌療法併用群が55歳であった。T-DXD単独群ではStage IIAが27.6%、Stage IIBが44.8%、Stage IIIAが24.1%、Stage IIIBが3.4%で、内分泌療法併用群ではStage IIAが37.9%、Stage IIBが51.7%、Stage IIIAが10.3%、Stage IIIBが0%であった。HER2発現は、T-DXD単独群ではIHC1+が75.9%、2+が13.8%で、内分泌療法併用群ではIHC1+が86.2%、2+が6.9%であった。リンパ節転移陽性はT-DXD単独群が51.7%、内分泌療法併用群が55.2%であった。またKi-67値が30%以上の患者はT-DXD単独群が55.2%、内分泌療法併用群が65.5%であった。
・ORRは、T-DXD単独群で68%(CR:8%、PR:60%)、内分泌療法併用群では58%(CR:8%、PR:50%)であった。
・ベースライン時から手術までの間に、T-DXd投与により49%の患者のHER2発現(IHC)が変化した。このうち88%でHER2発現が低下した。
・T-DXd投与後の残存腫瘍量(RCB)は、T-DXD単独群のRCB 0/Iが15%(0:5%、I:10%)、内分泌療法併用群のRCB 0/Iも15%(I:15%)であった。
・T-DXdに関連するGrade3以上の有害事象は、T-DXD単独群では嘔気、倦怠感、下痢、頭痛、嘔吐、低カリウム血症、好中球減少、脱水、白血球減少で、内分泌療法併用群では倦怠感、嘔吐、下痢、頭痛、低カリウム血症であった。
・間質性肺炎は、1例(Grade2)で生じ、治療中止後に回復した。
Bardia氏は、これらの結果から「本研究により、HR+かつHER2低発現の早期乳がん患者の術前補助療法として、T-DXdは有望な臨床効果が期待できることが示された。内分泌療法の上乗せによる効果の増強は認められなかったが、症例が少ないことに注意が必要である」とまとめた。
(ケアネット 森 幸子)