「骨転移診療ガイドライン」-新たな課題を認識しつつ改訂

提供元:ケアネット

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公開日:2023/02/09

 

 『骨転移診療ガイドライン』の改訂第2版が2022年12月に発刊された。2015年に初版発刊後、骨修飾薬の使用方法や骨関連事象のマネジメントなどの医学的エビデンスが蓄積されてきたことを踏まえ、7年ぶりの改訂となる。今回、骨転移診療ガイドライン作成ワーキンググループのリーダーを務めた柴田 浩行氏(秋田大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学講座)に、2022年の改訂のポイントや疫学的データの収集などの課題について話を聞いた。

骨転移診療ガイドラインは機能維持を念頭に置いた

 がん治療で病巣を取り除けたとしても身体機能の低下によって生活の質(QOL)が低下してしまっては、患者の生きがいまでも損なわれてしまうかもしれない。骨転移はすべてのがんで遭遇する可能性があり1)柴田氏らはがん患者の骨転移がもたらす身体機能の低下をいかにして防ぐことができるのかを念頭に置いて『骨転移診療ガイドライン』を作成した。「骨転移が生じる患者の多くはStageIVではあるが、外科的介入に対するエビデンスが蓄積されつつあることから、今回の改訂には多くの整形外科医にご参加いただき、外科領域のClinical Questionを増やした」と話し、「作成メンバーが、診断・外科・放射線・緩和・リハビリテーションと看護の5領域に分かれて取り組んだ点も成果に良く反映されている」と骨転移診療ガイドライン作成時の体制について説明した。

 治療については、上市から10年が経過した骨修飾薬(BMA:ビスホスホネート製剤、RANKL抗体薬)に関する長期経過報告がまとめられ、近年では骨修飾薬を投与することで骨関連事象の発生が低下していること、骨修飾薬投与前の歯科検診や投与中のカルシウム値の補正が行われていることなどが示された(p.15 総説3)。一方で、その投与間隔や至適投与期間を有害事象やコスト面から検討する必要性も指摘され課題になっている。

 それらを踏まえ、「標準的な診療の概要を示し、骨転移患者の診療プロセスの改善や患者アウトカムの改善を期すること」を目的とし、4つの総説(1.骨転移の病態、2.骨転移の診断、3.骨転移の治療とケア、4.高齢者・サルコペニア・フレイル患者の骨転移治療)、Background Question(36個)、Clinical Question(38個)、Future Research Question(41個)を盛り込んだ。

骨転移診療ガイドラインで読んでおきたい項目

 『骨転移診療ガイドライン』を作成し、その成果をモニターする上で疫学的な情報は不可欠であるが、「骨転移の実態を知ることはなかなかに困難である」と同氏は話した。がんの罹患状況は2016年に厚生労働省がスタートさせた『全国がん登録』2)の集計結果などを参考にするが、そこには遠隔転移の記載のみで、骨転移を含む個別の転移部位については登録されない。結果、がんの『転移部位』はすべて“転移”に包含されてしまい、どの部位への転移なのかを入力する項目がないことから、「その集計結果から骨転移の実数などを把握できない。現在の骨転移に関する必要情報はカルテを直接調べるしかないのが実情」と残念がった。なお、『骨転移診療ガイドライン』には日本の調査例として胸椎~腰椎の組織学的骨転移の剖検報告3)が示されており、それによると乳がんや前立腺がんでは75%、肺がんや甲状腺がんでは50%、消化器がん(消化器、肝胆膵)では20%前後の骨転移が認められている。このデータは約25年前のものであるが、2010~16年に米国の医療保険データベースを用いた研究結果と傾向は同様であった(p.2 総説1)。

 このほか、『骨転移診療ガイドライン』で読んでおきたい項目は以下のとおり。

・CQ5「骨転移を有する原発不明がん患者において、骨転移巣を用いた遺伝子パネル検査は原発巣の同定に有効か?」
・CQ8「病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨の骨転移に手術は有効か?」
・CQ19「過去に外照射を受けた骨転移の痛みの緩和に再照射は有効か?」
・CQ37「去勢抵抗性前立腺がん骨転移においてラジウム-223内用療法は有効か?」
・FRQ31「骨転移の治療に外照射と骨修飾薬(BMA)の併用は有効か?」
・FRQ32「骨代謝マーカーは骨転移を有するがん患者の治療モニタリングに有用か?」
・FRQ39「病的骨折のある患者の外科的治療後にリハビリテーション医療は有用か?」
・FRQ40「痛みのある骨転移患者に対するマネジメント教育は有効か?」

骨転移診療ガイドラインの作成から患者の未来を変えたい

 さらに同氏は「ガイドラインの改訂というのは医療者側の知識のアップデートだけではなく、患者への骨転移の病態啓発や、骨転移に関する症状の有無を問診する際などの医師と患者の医療面接おいても重要」だと話した。さらに骨転移診療ガイドラインの内容を基に同氏は患者が理解を深めやすい資料作成にも意欲的に取り組み、秋田大学医学部附属病院ではオリジナル漫画を患者に配布している。また、昨今、盛んに行われる骨転移キャンサーボードも「多施設間で行うことも新たな情報や知識、視点が加わることになるので実施することをお薦めする」と話した。

 ガイドラインは発刊後もその使用状況や患者アウトカムの改善についてモニタリングが必要で、作成して終わりではない。『骨転移診療ガイドライン』の場合は発刊1年以降を目途に、臨床的アウトカム(1:骨転移のがん種別頻度、2:外科的介入の割合、3:放射線治療の割合、4:骨修飾薬の使用割合、5:ADLの評価[通院、入院治療の別]など)への影響に関して調査を行う予定である点にも触れた。

 最後に同氏はガイドラインを山登りに例え、「ガイドラインは“山岳ガイド”のようなもの。トップクライマーは遭難のリスクを冒してでも前人未踏の頂きを目指すかもしれないが、山岳ガイドは登山客を遭難させる冒険はできない。派手さはなくとも、安全に、確実に登頂できるように先導することが重要。もちろん、もっと高い頂きを目指す必要は常にあるが、現状でそれが無理なら技術を磨いたりルートを開拓したりする必要がある」と話し、医師の知識のアップデートに留まらず、患者一人ひとりの病態に応じて参考にされることや骨転移診療ガイドラインの課題が新たな臨床試験の推進力になることを願った。

(ケアネット 土井 舞子)

参考文献・参考サイトはこちら

3)森脇 昭介ほか. 癌の骨(髄)転移の病理形態と問題点.病理と臨床. 1999;17:28-34.