心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。
RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。
以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。
【DOACスコア】
<年齢>
65~69歳:2点
70~74歳:3点
75~79歳:4点
80歳以上:5点
<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)>
30~60mL/分:1点
30mL/分未満:2点
<BMI>
18.5kg/m
2未満:1点
<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往>
あり:1点
<糖尿病の既往>
あり:1点
<高血圧症の既往>
あり:1点
<抗血小板薬の使用>
アスピリン:2点
2剤併用療法(DAPT):3点
<NSAIDsの使用>
あり:1点
<出血イベントの既往>
あり:3点
<肝疾患※>
あり:2点
※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合
主な結果は以下のとおり。
・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。
・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。
・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。
・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。
-RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001)
-GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025)
-COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001)
-RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001)
本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)