国立国際医療研究センター(NCGM)国府台病院総合内科の酒匂 赤人氏らの研究グループと国立国際医療研究センター病院は共同でわが国の全国規模のインフルエンザ診療の実態を調べ、その結果を報告した。
研究報告によると2017年度の抗インフルエンザ薬処方人数は1,339万例で、薬剤費は480億円。2018年度では処方患者数の約38%を20歳未満が占め、5~9歳では4例に1例が処方された計算だった。PLoS One誌2023年10月4日号の報告。
世界的には特有な日本の抗インフルエンザ薬の処方実態
わが国には抗インフルエンザ薬としてザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ペラミビル、バロキサビルなどが承認・使用されている。世界的にはインフルエンザ迅速検査で陽性となった場合、若年で持病などがなければ治療薬の処方はされないが、わが国では抗インフルエンザ薬がこうした若く持病のない患者にも処方されている。これはわが国特有の状況とされるが、全国的な抗インフルエンザ薬の処方実態に関するデータは不足している。そこでリアルワールドデータを解析することで、わが国の抗インフルエンザ薬の使用状況を明らかにすることを目的に研究が行われた(アマンタジン、ファビピラビルは本研究では対象外)。
方法としてわが国の個々の患者の性別、年齢、受けた検査、処方、手術などのデータが含まれるレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)を解析し、2014~20年度のNDBオープンデータを用いて記述疫学研究を実施した。その際、抗インフルエンザ薬を処方された年間患者数、処方された薬剤、患者の年齢・性別分布、薬剤費、地域格差を推定した。
主な結果は以下のとおり。
・2014~19年に抗インフルエンザ薬が処方された患者数は年間670~1,340万例。
・薬剤費は年間223~480億円と推定される。
・インフルエンザ迅速抗原検査は2,110〜3,200万件実施され、その費用は301〜471億円だった。
・2017年に最も処方頻度の多かった抗インフルエンザ薬はラニナミビル(48%)、オセルタミビル(36%)の順だった。
・2018年は新たに登場したバロキサビルが40.8%を占めた。
・新型コロナウイルス感染症の流行後、2020年に抗インフルエンザ薬を処方された推定患者数はわずか1万4,000例にまで減少した。
・2018年、抗インフルエンザ薬が処方された37.6%が20歳未満の患者であったのに対し、65歳以上の患者は12.2%であった。
・入院患者への抗インフルエンザ薬の処方は1.1%で、年齢が高くなるにつれて割合が増加し、入院中に抗インフルエンザ薬が処方されるのは女性よりも男性のほうが多かった。
今回の研究結果を踏まえ、酒匂氏らのグループは「わが国におけるインフルエンザの臨床管理の実態を明らかにしたうえで、今後は抗インフルエンザ薬を積極的に処方することについて臨床的・経済的側面を評価する必要がある」と展望を述べている。
(ケアネット 稲川 進)