遺伝性血管性浮腫治療薬のホームデリバリーでQOL向上を目指す/CSLベーリング

提供元:ケアネット

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公開日:2023/12/20

 

 2023年12月5日、CSLベーリング主催による「遺伝性血管性浮腫(HAE)患者さんのQOL向上をめざして」と題したプレスセミナーが開催された。同セミナーでは、広島市民病院 病院長の秀 道広氏による「HAE病態解明と治療法の進歩について」の講演が行われたほか、NPO法人遺伝性血管性浮腫患者会(HAEJ)理事長の松山 真樹子氏が患者の家族として、日常の苦労やHAE患者の今後の課題を述べた。

 また、CSLベーリングは同日付のプレスリリースで、2022年11月に発売されたHAE急性発作発症抑制薬「乾燥濃縮人C1-インアクチベーター(商品名:ベリナート皮下注用2000)」による在宅治療を行っている患者に対して、医薬品配送サービス「CSLホームデリバリー」を2023年12月1日より全国で開始したと発表した。

命に関わることもある指定難病のHAE

 HAEは、主に遺伝子の変異により血液中のC1インアクチベーターの低下もしくは機能異常により起こる疾患である。皮膚や腹部(腸)、手足や唇、喉など、体中のさまざまな部位に繰り返し腫れが起こり、とくに喉が腫れると気道をふさいで呼吸困難に陥り、命に関わる場合もある。HAEは、国の指定難病「原発性免疫不全症候群」の疾患の1つに認定されている。海外のデータでは人口の5万人に1人の割合で患者がいるといわれており1)、日本には約2,500例の患者がいると推定されている2)。しかし、日本では診断・治療中の患者は約430例にとどまるという報告3)があることから、診断に至っていない患者が国内に多くいる可能性が高いと、秀氏は講演の中で指摘した。

多岐にわたる症状により診断が困難

 症状が多岐にわたるため、患者は内科や胃腸科、婦人科などを受診することもある。HAEの認知度は皮膚科の医師においては高くなってきているものの、他科では低い状況もあって診断に至らず、実際、確定診断までにかかる年数は発症から14.8年という報告もある4)

長期予防薬にて治療可能だが、薬を持ち帰ることが負担

 診断に至った後でも、患者の悩みは続く。急性発作を予防するために、自己注射にて長期予防薬を投与する必要があるが、その治療薬の1つである「乾燥濃縮人C1-インアクチベーター」は30℃以下での保存が必須である。保冷バッグに入れる必要があり、「大きな荷物となるため持ち帰ることが大変困難」と、松山氏は患者家族の苦労を語った。

ホームデリバリーシステムにより患者負担の軽減を目指す

 「CSLホームデリバリー」は、薬を自宅に持ち帰る患者の負担軽減を目的に、定期受診の際に処方される医薬品、医療材料を患者の自宅に安全・確実に配送する、CSLベーリングが提供する医薬品宅配サービスだ。輸送時は適切な温度管理(保冷かつ凍結を避けて30℃以下で保存)ができるよう同社が開発した専用の輸送ボックスを用いる。また、物流面の安全確保措置として、佐川急便が所有するチャーターサービス(貸し切り)を患者ごとに手配することで、他の荷物と区別して届けることを可能とした。さらに患者の自宅に指定時間に配達後、佐川急便が配達完了の報告を保険薬局に行うことで、集荷から完了まで適切に追跡を管理する。

 同社は、「本取り組みが患者にとってより満足度の高い在宅治療につながり、適正治療および患者のQOLの向上に寄与できるよう今後も尽力していく」としている。

(ケアネット 石原 菜保子)

参考文献・参考サイトはこちら

3)大澤勲 編. 難病遺伝性血管性浮腫HAE. 医薬ジャーナル社;2016.