肺がん治療において、初診から治療開始までの時間が長くなるほど悪液質の発症率は増加し、さらに悪液質があると治療効果が低下すると示唆された。
悪液質は進行がんの50〜80%に合併し、がん死亡の20〜30%を占める予後不良な病態であるため、早期からの介入が重要である。肺がんでは、治療が進化する一方、病期診断、病理学的診断に加え、遺伝子変異の有無やPD-L1の発現率などの専門的検査が必要となり、初診から確定診断・治療開始までに一定の期間が必要となる。
この初診から治療開始までの待機期間に全身状態が悪化し、抗がん剤治療の導入自体ができなくなる例がある。また、治療導入できても悪液質に陥った状態で化学療法を開始した患者では、初回治療の効果が不良となりやすい。関西医科大学の勝島 詩恵氏は、初診から治療開始間に起きる身体機能変化、がん悪液質の発生について、第64回日本呼吸器学会学術講演会で発表した。
主な結果は以下のとおり。
・初診から治療開始までの期間中央値は、手術症例37.0日、化学療法症例42.5日であった。
・初診時と治療開始時の身体機能の変化はBMI(p=0.001)、握力(p=0.009)、MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)精神ストレススコア(p=0.001)と有意に相関していた。
・初診から治療開始までの期間中央値を基準に早期群と遅延群で悪液質発症率を評価すると、早期群では初診時61%、治療開始時61%と変化がなかった。一方、遅延群では初診時37%、治療開始時87%と悪液質の発生が増加していた。
・病期別で悪液質発症率を評価すると、StageI~IIIAでは初診時と治療開始時で変化はなかった一方、StageIIIB/CとIVでは治療開始時に悪液質発症が増えた。とくにStageIVでは初診時から治療開始時のあいだに新規に悪液質発症が有意に増加していた(8例→16例、p=0.008)。
・悪液質発症の有無と治療効果を評価すると、病勢制御率(DCR)は悪液質あり群66.7%、なし群100%、初回治療完遂率は悪液質あり群58.3%、悪液質なし群では100%であった。
進行期の肺がん患者においては、初診から確定診断・治療までの待機時間は長く1ヵ月を超える。この期間に悪液質を発症した結果、初回治療の機会さえ失ってしまう症例がある。たとえ治療導入ができても、この待期期間中に身体機能が落ち、悪液質の状態となっていると初回化学療法の効果が劣ることが示唆された。
勝島氏は「よりよい治療選択のための精査にかかる時間は、初回治療導入のチャンスを失うリスク、身体機能低下のリスク、治療効果を下げるリスクを抱える。悪液質に対する真の『早期』からの介入とは、化学療法開始時ではなく、さらに前の初診時なのかもしれない。今後、悪液質に対する適切な介入時期についても検討していきたい」と述べた。
(ケアネット 細田 雅之)