心臓の健康状態が良好であることは脳の健康にとっても重要であり、脳血管疾患や認知症のリスクの抑制につながることが明らかになっている。では、そのような違いを生み出すための行動を、人生の中盤以降に始めたのでは遅すぎるのだろうか?
新たに報告された研究によると、その疑問の答えは「NO」のようだ。
米国脳卒中協会(ASA)主催の国際脳卒中学会(ISC2023、2月8~10日、ダラス)で報告されたこの研究により、心臓の健康状態を改善するための中年期以降の行動が、約20年後の脳血管疾患や認知症のリスクの低さと関連のあることが分かった。発表者である米ミネソタ大学のSanaz Sedaghat氏は、「わずかな改善であっても将来的に効果が現れる可能性がある」と述べている。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
心血管疾患のリスク因子(肥満や過体重、運動不足、高血圧など)が、脳血管疾患や認知症のリスク因子でもあることが、多くの研究から示されている。しかし、中年期以降にそれらのリスク因子の改善や悪化が見られた場合に、その後の加齢に伴う脳血管疾患や認知症のリスクがどのように変化するのかという点は、ほとんど明らかになっていない。
今回報告された研究は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARICスタディ」のデータを解析したもの。ARICスタディの参加者1,638人の中年期の2時点(平均年齢53歳と59歳)のデータ、および高齢期の1時点(同76歳)のデータが解析に用いられた。研究参加者はこの3時点に、米国心臓協会(AHA)が提唱していた、心臓と脳の健康を守るための7種類の行動「Life's Simple 7」の順守状況が評価された。なお、Life's Simple 7には、食事、身体活動、体重、喫煙、コレステロール、血圧、血糖に関連する因子が行動目標として掲げられていたが、AHAは2022年、新たに「睡眠」を留意すべき事柄として追加し、現在は「Life's Essential 8」として提唱している。
研究参加者は、Life's Simple 7の順守状況を項目ごとに0~2点の間で判定された。また、高齢期の追跡調査では、画像検査による脳の白質高信号域と微小出血・梗塞、および細胞死を含む脳血管疾患のリスクマーカーが評価された。これらの検査により、脳血管疾患や認知症のリスクの程度を把握できる。その結果、中年期と高齢期にLife's Simple 7の健康スコアがともに高かった人や、中年期以降に健康スコアが上昇した人は、脳血管疾患や認知症のリスクが低いことが分かった。健康スコアが1点上昇するごとに、リスクは約7%低下していた。「私にとって興味深いことは、健康スコアがわずか1点異なるだけでリスクに大きな違いが生じることだ」とSedaghat氏は語っている。
この研究では、Life's Simple 7を構成している個々のスコアの変化が、脳の健康にどのような影響を与えるかという視点での解析はされていない。一方、健康スコアの変化と、脳血管疾患のタイプ別のリスクとの関連が検討された。Sedaghat氏によると、「例えば、中年期から高齢期にかけて、健康スコアが理想的なレベルに維持されていた人は、スコアが低下した人に比べて、脳微小出血のリスクは33%、脳梗塞のリスクは37%低いことが示された」という。
本研究には関与していないウエスタン大学(カナダ)のVladimir Hachinski氏は、「この研究結果は、心血管の健康状態を改善する行動を取ることで、脳のダメージも防ぐことができることを示している。この研究の次のステップは、脳の健康に最も寄与していたのが、どの心血管リスク因子の管理なのかを明らかにすることだ」としている。また同氏は、「心血管疾患専門医と脳血管疾患専門医の互いの協力が必要であることを示すエビデンスが増えている。心臓病と脳血管疾患、認知症が、全て同じリスク因子によって発症する一連の疾患であるのなら、それらを包括的に予防することが理にかなっている」と付け加えている。
[2023年2月7日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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