糖尿病患者は非糖尿病者よりも静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高いこと、特に女性患者でリスク差が大きく、かつ男性糖尿病患者との比較でもリスク差がある可能性を示すデータが報告された。ウィーン医科大学(オーストリア)のCarola Deischinger氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」12月号に掲載された。
糖尿病と心血管疾患(CVD)リスクとの関連については豊富なエビデンスがあり、糖尿病に伴う凝固亢進状態はCVDのみならずVTEリスクも押し上げることが想定される。ただし、糖尿病とCVDの関連に比べ、糖尿病とVTEに関するエビデンスはまだ十分でない。特に、性差についてはほとんど分かっていない。
Deischinger氏らの研究は、オーストリアの1997~2014年の医療費請求データベースを用いたレトロスペクティブなコホート研究として行われた。20~79歳の糖尿病患者18万34人と、年齢・性別が一致する糖尿病でない54万102人を対照群として設定し、VTEリスクを糖尿病の有無および性別・年齢層別に比較した。
その結果、非糖尿病群のVTEリスクは男女間で類似しているのに対して、糖尿病患者では男性より女性の方が、年齢にかかわらずほぼ一貫して相対リスクが高かった。具体的には、男性糖尿病患者は非糖尿病男性に比べてVTE診断のオッズ比(OR)が1.30(95%信頼区間1.26~1.35)であるのに対して、女性糖尿病患者は非糖尿病女性に比べてOR1.52(同1.46~1.58)だった(いずれもP<0.001)。女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.17倍(同1.11~1.23)であり、女性糖尿病患者のVTE発症が有意に多かった。
年齢層別に見ると、20代は男性・女性ともに、糖尿病であっても有意なオッズ比の上昇は認められず、女性糖尿病患者と男性糖尿病患者との比較でも有意差はなかった。30代では男性・女性ともに、糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められたが、女性患者と男性患者の比較では有意差がなかった。40~70代は全て、男性・女性ともに糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められ、かつ女性患者は男性患者よりも有意にオッズ比が高かった。性別によるオッズ比の差が最も著しい年齢層は50代であり、女性糖尿病患者は女性非糖尿病者に対してOR2.14(1.91~2.40)、男性糖尿病患者は男性非糖尿病者に対してOR1.30(1.20~1.41)であって、女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.65倍(1.43~1.89)に上った。
このほかに、処方されている血糖降下薬のカテゴリー別の解析も実施され、DPP-4阻害薬を処方されている女性患者は、同薬が処方されていない女性糖尿病患者に比較してVTE診断のオッズ比が有意に高いことが示された〔OR2.3(P=0.0096)〕。男性については、DPP-4阻害薬の処方の有無による有意差は見られなかった。また、インスリン、ビグアナイド薬、SU薬、チアゾリジン薬の処方の有無では、男性・女性ともに有意差がなかった。
著者らは、「われわれの研究結果は、女性糖尿病患者、特に閉経期の患者はVTEの発症を、より注意深く監視する必要があることを示唆している」と述べている。
[2023年1月5日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら